SBI1 決定概要

条約実施補助機関という常設の会議体となって初めての会合が終わりました。名古屋議定書とカルタヘナ議定書も一緒に議論するということでしたが、まだ相乗効果を期待できるほどの変化は感じられなかったのが正直な感想です。条約の実施は、どのように条約(事務局)を効果的に運営するかという内向きの議論から、どのように多くの利害関係者(国際条約や企業・自治体など)を巻き込むかという外向きの議論まで扱いました。また、SBIのそのものの運営方法も話し合われました。

 

戦略計画・愛知ターゲットの進捗評価

戦略目標の進捗状況というタイトルですが、議論の中心は生物多様性国家戦略の実施状況でした。180カ国が第5次国別報告書を提出し、89カ国が2010年以降に生物多様性国家戦略を策定・改定したことを評価しつつ、目標10(脆弱な生態系の保護)目標17(効果的・参加型戦略)が未達成であること、目標14(生態系サービス)目標18(伝統的知識)の進展が遅いことに懸念を示す文案をまとめました。目標の意欲性を高めることも締約国に奨励し、また、生物多様性地域戦略の策定促進を締約国に求めました。また、SDGsの目標や指標も活用することを求めています。

 

次回の第2回SBIでも愛知ターゲットの実施状況を検討するためにも、2017年12月末までにオンラインレポーティングツールを使って愛知ターゲットの実施状況を求めるよう依頼しました。また、先住民の尊重に関する8(J)項に関連する議論を国家戦略や愛知ターゲットの進展に組み込むことを求めています。

 

主流化を含む愛知ターゲット達成のための戦略的行動

SBIの1週間前に開かれたSBSTTAでも主流化が議題となりましたが、その際に、SBSTTAの成果とSBIの成果を一つの文書にしてCOP13に送ると決めていました。そのため決議のオリジナルはSBSTTAとSBIの成果を一緒にした17ページもの大きな文章となっています。国連生物多様性の10年の決議も想起し、主流化の重要性を強調しています。

<国際プロセスと主流化の強化として>
パリ協定、SDGsの採択などを歓迎し、SDGsの実施が愛知ターゲットの主流化の機会になるという認識を共有する文案をまとめました。また、愛知ターゲット達成とSDGs達成の相乗効果をはかることなどを求めました。

<分野を超えた主流化>
締約国に対し、
−生態系の価値評価や、対象に合わせたコミュニケーションツール等を活用し生物多様性の多様な価値に関する普及啓発の手法をとること
−環境経済報告、自然資本会計の利用を進め、スケールアップすること
−環境影響評価や戦略的環境影響評価などを改善すること
−生物多様性への正負の影響を持つ取り組みの評価を行うこと
−持続可能な消費と生産に関する政策等を強化すること
−上記の分野を超えた主流化手法を検証し、強化すること、
−SDGsの実施に向けた活動を統合するアプローチを活用すること を求める文書案をまとめました。

<観光業への主流化>
締約国等に対し、
−COP7で採択し(さらにCOP12で更新し)た生物多様性と観光業に関するガイドラインの活用
−持続可能な観光に関連する政策や事業の開発
−持続可能な環境の利益や価値を生み出すこと、
−民間部門も巻き込み能力養成をすること
−一般市民や観光客への様々なCEPAツールの開発や利用を行なうこと
−関連する活動を第6次国別報告書で記載すること
を求める文案をまとめました。

<企業の参画>
事務局による企業活動の類型化(typology)作業を歓迎し、
締約国が企業に奨励する事項として
−サプライチェーンを含む企業活動の影響についての情報を評価すること、
−生物多様性への依存度や影響などをはかるアプローチや多様なツール(例えば、自然資本プロトコル)の考慮を求める文案をまとめました。

締約国に対しては、
−持続な可能な消費や、生産に関する政策や計画における生物多様性への配慮の強化、持続可能な消費や態度変容などを促進するために公的部門・民間部門との連携、ビジネス関係の意思決定やビジネスに関する普及啓発に生物多様性の主流化を推進する政策の実施を求めています。
−企業に対しては、企業活動の類型化を報告などに活用しつつ、生物多様性と企業に関する活動へ参加することや、類型化の活用や改善強化のための提案を提供することなどを求めています。

<自治体(Sub national and local government)>
−締約国に対して、自治体を巻き込む取り組みの強化や、生物多様性の重要性の普及を行なうこと、自治体の貢献を強化することに向けた戦略の確立を考慮することを求めました。

<ジェンダー>
−SDGs目標5のジェンダーに関する世界目標の合意を受け、ジェンダーに関する行動計画の実施継続することを求めています。

<更なる作業>
事務局に対して、
−多様なステークホルダーとのパートナーシップを強化すること
−優良事例や成功モデルの特定や企業による生物多様性活動の類型化の精査し、SBI2で検討すること
−第6次国別報告書の観光に関する情報を分析すること、持続可能な観光の開発を支援するための情報をSBSTTA14の前に締約国に提供すること、
−GEFに対して主流化に関する活動への支援を求める文案をまとめました。

 

その他の条約・国際組織やイニシアチブとの協力:生物多様性関連条約間での相乗効果増加

当議題の内容は、2016年2月にスイスのジュネーブで実施された、生物多様性関連条約間での相乗効果に関するワークショップの結果に基づき作成されました。主な内容としては、

事務局に対して、
スイスで実施されたワークショップの結果を更に分析し、下記(a)(b)をCOP13で公表する。
(a)政府がとる行動の選択肢として、相乗効果発揮のための国レベルでのガイドライン(ボランタリーなもの)をまとめる
(b)世界レベルでの行動の選択肢として、2017年~2020年までのロードマップをまとめる

 

政府に対しての文章は、まだ上記のガイドラインやロードマップが完成していないこともあり、多くの文書が保留(COP13まで決めない扱い)になっています。COP13で出てきた文書を見てから、ガイドラインやロードマップをどの位の重要度として取り扱うか決めたいとの意見が多く出ました。

 

 能力養成(キャパシティビルディング)、科学技術協力と技術移転

条約では、科学技術協力と技術移転に関するプログラムを実施することを政府に要請しています。特に、自国だけでの実施ではなく、発展途上国との協力を行いながら、下記3点を進めることが要請されています。
①人的資源と制度の構築
②先住民族/伝統的知識を含む技術の開発と使用
③技術的かつ科学的な協力のためのクリアリングハウスメカニズムの構築

 

今回当議題で具体的に取り上げられていたのは、オンライン上で愛知ターゲットの進捗などをレポート出来るツールの構築、条約や議定書について学べるE-learningの構築(日本の資金協力で出来ています)、国家レベルでのクリアリングハウスメカニズム構築のためのワークショップ実施などです。(これらは、既に取り組みが進められているものです)

 

また、今回のSBIでは、キャパシティビルディングに関するドラフト版のアクションプラン(2017-2020)が発表されました。事務局は、その他関係する機関と共に、このアクションプランをCOP13までに整備することが求められています。整備の内容としては、既に行われていることを除いたり、事務局で既に実施している内容と求められているキャパシティビルディングの内容との間のギャップ分析を行ったり、といったように、細かく内容が指定されています。

(公財)日本自然保護協会・IUCN日本委員会 道家哲平・佐藤真耶