生きものからの「SOS」に現れたヒーロー達!それは?

自然を守るための投資が集まったとしても、有効活用することが求められます。時には、資金提供者(ドナー)の意向として、霊長類の保全に使って欲しいといった要望があるかもしれません。霊長類の保全をしっかり取り組んでいて成果を出してくれる世界の団体はどこにいるか?、あまり知られていなくても地道に活動している団体・専門家はいないだろうか?今、緊急に守られなければいけない生物はいないだろうか?

 

そう考えたとき出てくる一つの答えが「そうだ、IUCNのSOSプロジェクトに聞こう!」です。

 

SOS(Save Our Species)は、2010年COP10の時に立ち上がり、世界銀行、地球環境ファシリティーとIUCNとで運営された助成事業ですが、運営団体がIUCNということで、単に資金をだすだけでないひと味違ったプログラムとなりました。基金には10億円の資金が集まり、2016年までに109の事業を支援し、250の絶滅危惧種を対象とし、78の団体が助成を受けました。

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SOSの支援を受けた団体の皆さん

 

例えば、ハンマーヘッドシャーク保全事業では、2年間の支援を受けました。見た目から意外と名前の知られているこの種はその生態については分かっていないことが多いそうです。中南米のサンゴ礁が主な生息地で、メキシコ、ベリーズ、グアテマラ、ホンジュラス等で見られます。

 

最初に、保全事業のためのベースラインの確立が必要として、潜水調査や漁船に混獲された個体の調査、エコー調査などを実施し、最終的には1000Km泳いで調べたそうです。また、このサメが人にどのように利用されているのかという市場調査を行なったところ、グアテマラで食べるらしいことも分かりました。

 

そして多様な調査の結果から、混獲など漁業の負荷を減らすなどの取り組みを実施したり、学校の教育課程の一環でハンマーヘッドシャーク調査の体験学習等も実施。人形などもつくって普及啓発によるこのサメのイメージや人々の態度の変化をめざし、40,000人にFacebookでメッセージを届けることが出来たといった成果や、それ以外にも、国の政策を変え、広く生息国を入れた保全計画を打ち立てるという大きな成果も上げました。

 

南アフリカでは、ほとんど注目されない種である針葉樹の仲間のMulanje Ceder(マラウィの国を代表する木)の保全活動の取り組みもされています。この針葉樹は南アフリカの小さい山に生育する、絶滅危惧ⅠA種で、非常に固い木で建築材としての需要が高く違法伐採が続いていました。

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支援期間の間に、地域自治体と長期管理計画を策定し、実施することで、種子の確保と苗木を育成して、植えるという仕組みの構築までこぎつけ、結果森林の倍増となったそうです。成功のポイントは、地域や政府のリーダーシップを引き出すことが出来たこと、管理計画の作成や科学的知見の取り入れ(こういう場面で、世界中に7,500人以上いる種の保存委員会のネットワークが活きてきます)たことでした。2年連続の異常気象(サイクロンと洪水)、違法伐採の圧力はまだ残っていて気が抜けませんが、政府や地域や民間部門からの支援があれば保全は可能という展望が描かれているそうです。

 

ロンドン王立動物園協会では、このSOSをもとにセンザンコウの保全のため、カメルーンやタイでの保全計画と、中国の需要に対する提案などをし、センザンコウ保全行動計画などを打立てています。

 

センザンコウの取引の実態に警鐘を鳴らす

センザンコウの取引の実態に警鐘を鳴らす

この助成事業の強みは、確実な助成対象団体の選定能力、ドナーへの対応・提案能力、助成対象団体への専門的な助言(世界中から参加している7,500人の専門家の支援!)。そして、ジャイアントパンダといったカリスマ種でない、”名も知られていない、生態も分かっていない木”にも支援の手が回るところです。

 

(公財)日本自然保護協会経営企画部副部長
国際自然保護連合日本委員会副会長・事務局長
道家哲平