先住民地域共同体による貢献の可視化ー地域生物多様性概況
ポスト2020枠組みを考える際に、締約国が現状の認識をするための情報として重要なものが2019年5月にIPBESが発表したGlobal Assessmentといわれる文書と、2020年5月に発表予定のGBO 5(Global Biodiversity Outlook:地球規模生物多様性概況)です。GBOは各国が提出した国別報告書に基づいたレポートなども反映される形で作成されます。これら情報に基づいて、締約国は現状の地球環境について共通認識をもって、政策判断を行います。
先住民族と地域コミュニティ(IPLCs)は、この情報に加えて、締約国が政策判断を行う際の現状認識においてより地域の実情を反映させたいと考え、COP10以降、長年にわたって指標化(indicator)に取り組んでいます。この取り組みはCBMIS(Community Based Monitoring and Information System)と呼ばれています。
最初はフィリピンのコルディレラ地方とケニアの二か所でパイロットプロジェクトが始まりました。約1年にわたる実践後、COP11でその経験と成果が参加者に共有されました。先住民族の伝統的知識(Traditional Knowledge)を扱う際に、地域に生息する動物種、植物種の状況、土地、水、そして他の自然資源などの情報だけでなく、先住民族の言語、職業、暦など文化的資源の情報について集約し、文書化し、データ化することを目指しています。根底には、これまであまり科学的な取り扱いをされてこなかった自分たちの文化、習慣を、いかに科学的な指標として国際社会に伝えていくかといった問題意識があるのです。
COP11での事例共有を経て、IPLCsではアジア、太平洋、北極圏、ロシア、アフリカ、中南米のそれぞれの地域でさらに指標化の取り組みが始まりました。以降、SBSTTAやCOP12のサイドイベントの中で各地域の事例や調査の進捗が共有され、データ共有と同時に、より広範に能力開発に取り組み、ネットワークの中で共有する方向性が確認されました。
こうして広がった事例調査の成果がより締約国に伝わりやすくなることを目指して、この事例調査が先述のGBOの形式を踏襲する形でまとめられました。この文書は、COP13でLocal Outlook Biodiveristy 1(地域生物多様性概況第1版)という形で発行されました。ディアス条約事務局長(当時)は発行時、記者会見で「LBOは、IPLCsが果たす役割の重要性を示し、グラスルーツから愛知目標がどこまで実現されているのかを評価する大切なレポートである」と述べています。
さらにCOP14では、情報によりアクセスしやすくなることを目的にWEB上に情報を掲載し、更新していくとしてホームページも公開されました。
愛知目標採択後、こうして着実に実践され拡がっててきたCBMISの調査結果ですが、今回のSBSTTA23では、締約国がポスト2020枠組みを採択する際に重要な判断材料として扱ってもらうべく、LBO 2という文書の発行を報告し、この取組結果についても締約国に尊重されるべく、その理解とサポートをもとめています。
発表されるLBO2は、20の愛知目標それぞれについて、関連する各地域のケーススタディからの報告を掲載し、各目標の達成度をIPLCsの視点からどのように評価するか、といったアプローチでまとめられています。発行スケジュールはGBO5と同様です。現在は2020年1月6日までのpeer reviewが行われている段階です。
IPLCsとしては、IPLCの効果的で完全な参加(full and effective participation)を実現するものとして、このレポートが締約国の意思決定プロセスの中で尊重されることを重要な目標としています。ですが、残念ながら、今回のSBSTTA23のプレナリーでLBOへのサポートを発言したのは、スウェーデンとフィリピンの2か国にとどまっています。
なおこのLBO2は、SBSTTA23の会期中に編集委員会ももたれており、発行にむけた最終段階の打ち合わせが進んでいます。
Local Biodiversity Outlook HP : https://beta.localbiodiversityoutlooks.net/
UNDB市民ネットワーク 三石朱美