【決定紹介】SBSTTA23終了 8つの決定を採択

12時まで続いた昨夜の会議から一夜明け、気温は0度を超えないまでも、快晴に恵まれた最終日。残された会議ペーパーの検討を終え、終了予定(6時)を大きく超え夜9時過ぎに、議事録含む、8つの決定を採択しました。

今回会議参加(登録)社は、約650名。いつものように半数は政府代表で、半数近くが国連機関やNGO、先住民地域共同体の代表が参加しました。

参加(登録)人数は、約650名

参加(登録)人数は、約650名

以下に、いくつかの決定の概要を紹介します。

決定概要の紹介の仕方は、議題に関する簡単な補足説明+SBSTTA決定(すぐに効果を発揮)+COP決定“案”(COPでの採択をもって効果を発揮)という流れでの紹介となります。

最後の際まで交渉が続くSBSTTA23

最後の際まで交渉が続くSBSTTA23

ポスト2020枠組みへの科学技術的エビデンス

ポスト2020枠組みについては、GBO5も含めると、初日+5時間程度のコンタクトグループ3回の計20時間近い話し合い、最終日の午後のプレナリーの時間(3時間)もフルに使って議論を行い、第1回ポスト2020作業部会の議論のように、たくさんの意見・提案が出されたターゲットに関する意見を集約した文書をまとめました。

最終日の交渉で問題になったのは、IPBESのグローバルアセスメントで指摘された「既存の手法の実施やスケールアップ、社会変革への取り組みを通じて、生物多様性の損失の要因に取り組む緊急の行動を締約国は取るべきだ」という言葉を入れたくないというブラジルの発言でした。科学技術助言機関会合という会議体の性質からもブラジルの発言に納得できないという国も多く止まってしまいました。

<決定概要>

SBSTTA決定では、

IPBESやIPCCのレポートを歓迎しつつ、2050年ビジョンの達成ために、生物多様性の損失要因に取り組むための緊急の行動の強化の必要性を強調し、今回の議論の成果を第2回ポスト2020作業部会に活かすことを要請しました。

締約国やオブザーバーに、ポスト2020枠組みの中で、テーマ別ワークショップの対象となっていないターゲットや指標、ベースライン、モニタリング等について意見提案を奨励するとともに、それらを第2回ポスト2020作業部会や第24回SBSTTAで検討することになりました。

また、GBO5の進捗を留意するとともに、ピアレビューへのコメントを要請、締約国に対して第6次国別報告書を提出すること、事務局に対して、第6次国別報告書の分析を行い、GBO5に反映させることを求めました。

気候変動と生物多様性

気候変動(Climate Change)が、気候危機(Climate Crisis)と用語を変えつつある中で、気候変動対策(緩和と適応)と生物多様性の連動をさらに進めるための議論が行われました。双方にプラスに働く生態系をベースとしたアプローチの推進を求めつつ、一方で、自然再生エネルギーへの移行に伴う生物多様性へのリスク(バードストライクと風力発電の関係などが想像しやすいかと)削減・緩和の文言も入りました。

<決定概要>

SBSTTA決定(採択によってすぐに効果を発揮)として、

気候変動に関係するIPCCの各種報告やG7、G20サミットの成果文書などを考慮し、ポスト2020作業部会やSBSTTA/SBIなどの今後の会合や、生物多様性国家戦略の更新に関する指針作成の作業などで、その成果を活用することを求めました。

生態系ベースアプローチ(Ecosystem based approach)と、自然を基盤とした解決策(Nature based approach)という用語の整理を行い、「“自然を基盤とした解決策”は、気候変動の緩和・適応・自然災害リスク緩和のための生態系ベースアプローチの重要な構成要素である」という認識を共有しました。

COP15の決定案としては、

IPBESやIPCCの関連レポート、CBD事務局がまとめた報告等を歓迎するとともに、生態系復元、持続可能なインフラ、持続可能な生態系管理や、気候変動の緩和・適応・自然災害リスク緩和のための生態系ベースアプローチの活用を要請し、NDC含む気候変動緩和や適用戦略に生物多様性を組み込むことを奨励しました。

また、先住民地域共同体、女性、ユースや民間セクターなどの完全で効果的な参加を確保しながら、締約国、その他に対して、①「気候変動対策に関する生態系ベースアプローチのデザインや効果的な実施に関する自発的ガイドライン」の活用、②自然再生エネルギーへの移行を含む、生物多様性へのリスクの特定や回避・削減と、相乗効果の最大化を行うことなどを求めました。

さらに、締約国に対して、生態系ベースアプローチへの投資の拡大や、様々な政策への統合、生物多様性と気候変動の相乗効果の機会を作り活用することを求めました。

他にも、気候変動枠組み条約に自発的ガイドラインの活用を求める文言も採択しました。

事務局に対しては、①気候変動に影響を受ける脆弱な生態系のリスクアセスメントや管理に関するガイダンスを提供すること、②生態系ベースアプローチの普及啓発をすること、先住民族やそのモニタイリングに関する事業を支援することなどを求めました。

人と自然の関係に関する作業計画

先住民地域共同体に関する8(J)作業部会で検討された作業計画の議論の成果を踏襲する形での決議をまとめ、一部追加的な文章をいれました。追加した内容も微修正に近いもので、先住民地域共同体の活動とIPBESの作業との連動に関する文章です。

<決定概要>

文化と自然の多様性に関する共同作業計画の要素(第11回8(J)作業部会決定案)は、CBD事務局、国連科学教育機関(UNESCO)、IUCN等の協働事業という位置づけで検討されるもので、①進行中の自然と文化の多様性の損失への対策、②知識や知識体系・指標やモニタリングなどに関する対話、③生物文化多様性や自然と文化のリンケージの社会生態システムへの統合、④コミュニケーション・教育・普及啓発に関する新しいアプローチの開発、という4つの要素のもとに、複数の作業(TASK)の列挙しています。

生物文化多様性については、アジアの会合が日本の石川県・金沢市で第1回が開かれ、その後世界各地で生物文化多様性会合が開かれています。筑波大学では、世界遺産条約(UNESCO管轄)における人と自然のつながり、というテーマで人材育成含む研究プログラムを展開する等、日本にも関係の深い話題の事業です。

持続可能な野生生物管理

このテーマは、かつては途上国における野生動物の利用の適正化に関する議論で、途上国の市民や先住民地域共同体の食糧事情と、狩猟対象種の個体数減(絶滅危惧種の拡大)、能力養成など難しい議論が繰り返されてきました。今回は、この関連の様々な仕組み(ワシントン条約、移動性動物の保護に関する条約、国際警察機構)と連動して、特に野生生物の違法捕獲の防止体制の強化に関係する文言が増えたように感じます。

<決定概要>

SBSTTA決定としては、

野生生物管理に関する様々な仕組みやツール、取り組みをまとめた事務局資料に留意し、ポスト2020作業部会共同議長に対して野生生物管理の議論をポスト2020枠組みの議論に反映させることを要請、事務局に対し最新の情報を持続可能な利用に関して検討しているIPBESアセスメント作業に反映させることなどを求めました。

COP決定案としては、

野生生物管理に関する関係する生物多様性条約や、その他の機関による取り組みを歓迎するとともに、条約事務局長に対し、締約国や先住民地域共同体、持続可能な野生生物管理に関する共同パートナーシップメンバーなどと協力すること、野生生物管理に関するガイドラインの補完ガイドラインに関する作業、CITESやFAO、移動性動物の保護に関するボン条約などとの連携の継続を求める案をまとめました。

ポスト2020枠組みに向けた科学技術協力

ポスト2020枠組みの意欲度にも関係する(目標の実施能力にかかる)科学技術協力については、締約国や関連機関の間の協力を促進するための「科学技術協力の強化のための提案」という10ページの付属書を含む決定(案)や、提案を検討していくための、非公式助言グループ(Informal Advisory Group)の委嘱事項案(Term of Reference)の付属書から構成されています。

「科学技術協力の強化のための提案」は、科学技術協力の目的、基本原則、優先度の高い領域、期待される科学技術に関する活動(例えば、ヘルプデスクサポートや、技術とニーズのマッチングサービス)、組織体制や具敵的な仕組み(グローバルな仕組みと、地域ごとの仕組み構築の2つの選択肢)などがまとめられた資料です。JICAや国立環境研究所などの研究機関の方には読んでいただきたい文書と言えます。

<決議概要>

SBSTTA決定としては、

ポスト2020枠組みは確固とした科学技術協力が重要であり、生物多様性の主流化、社会変革、生物多様性の損失の直接間接要因への対処へと科学技術協力を拡大する必要があり、科学技術強化の提案(付属書)の重要性を確認した上で、

事務局に対して、提案内容を高めるためのパブコメ(正確には、条約用語はSubmission)の実施と、事務局としての提案内容の精査(例えば、推進のための仕組みについて示された2つのオプションのメリット・デメリットの比較やこのテーマに関係しうる既存組織の整理等)を求めました。パブコメの成果は、ポスト2020枠組みの検討にも反映させていきます。

これらに加え、科学技術協力推進のための非公式助言グループの委嘱事項案、および、条約の既存の科学協力の仕組み(Bio-Bridge Initiative、森林生態系復元イニシアティブ、世界分類学イニシアティブ)の評価と更新のための提案などまとめ、条約の実施に関する作業部会(2020年5月開催予定)で、COP15の決定案をまとめることを要請しました。

*COP15の決定案は、SBIで取りまとめる予定です。

その他の決定

新規の緊急課題は、合成生物学に関係する提案を、SBSTTA24での検討に先送りする趣旨の決定を、EBSAに関する決定は、2010年から始まった、EBSA特定作業について、北西大西洋の作業が終わったことを歓迎する決定がまとまりました。

IUCN-J道家哲平(日本自然保護公開)