一歩前進? まだまだ長い道のりを残す ポスト2020枠組み交渉

SBSTTA23が終了し、議事録含む8つの決定が採択されました。今回の成果をどう見ることができるでしょうか?主にポスト2020枠組みの議論を中心に、予測も一部含む、個人的な見解をまとめたいと思います。

5日のうち、レセプションのあった初日を除き、11時過ぎまで毎晩交渉が行わました

5日のうち、レセプションのあった初日を除き、11時過ぎまで毎晩交渉が行わました

 

全体の雰囲気

SBSTTA23ではポスト2020枠組みのターゲット部分について科学技術的視点からポスト2020作業部会に助言をするという位置づけからの議論が連日行われました。ポスト2020作業部会で、ちょっと顔を出した「意欲度の高い目標を設定するには、意欲度の高い資金提供を」といった条件交渉はほとんどなく、比較的純粋に要素を洗い出し、実際の文言の作り方の体験をしてみたといった雰囲気に感じました。

ポスト2020枠組み交渉での位置づけ

ポスト2020の現状はどういうステージなのかというと、6または7つあるステップのうちの2つ目といったところ。まだまだ長いプロセスが待っています。

簡単に紹介すると下記のようになります。ポスト2020を考えるうえで必要な自然に関する現状と予測(IPBES報告、2020年5月)、2020枠組みの全体イメージ(第1回ポスト2020作業部会)、目標のイメージ(SBSTTAをおえ、ここまで来た)、目標ごとの文言整理(第2回ポスト2020作業部会、2020年2月)、枠組み後半部分・指標や実施の仕組みの検証(第24回SBSTTAおよび、第3回SBI、2020年5月)、目標を現実化するためのノウハウの共有や戦略作り(IUCN-WCC2020、2020年6月)、ポスト2020枠組み全体整理(第3回ポスト2020作業部会、2020年7月)、ポスト2020枠組みへの政治的意思表明(国連総会、ネイチャーサミット、2020年9月)、最終合意(CBD-COP15、中国・昆明、2020年10月)

ポスト2020枠組みに関する交渉内容について

2030ミッション

2030ミッションのところを見てみましょう。ミッション(Mission)、使命とも訳せるこのパートは、2050年の将来像に向けて、「2030年までに我々にはどんな果たさなければならない仕事・使命があるか」という部分を記述する部分です。いわば「新しい枠組みは一言でいうと、こういうものです」という核となる部分と言えます。愛知ターゲットでは、「2020年までに、生物多様性の損失を止めるための効果的で緊急の行動をとる」でした。すなわち、“止まるのは2020年から先”ということを意味しています。

SBSTTA23の二日目の夜は、6つのパターンを元に、意見交換を行いました。

(a) 行動志向→成果→要素明示型) “Implement solutions across society by all stakeholders to halt and reverse biodiversity loss and enhance benefits-sharing/benefits of ecosystem services, contributing to the global development agenda and, by 2030, putting the world on a path to achieve the 2050 vision”:
(b) 成果志向型+行動+目的明示型) “By 2030, put nature on path to recovery for the benefit of all people by protecting wildlife, restoring ecosystems, tackling the drivers of biodiversity loss and avoiding a climate crisis”
(c) 成果志向型+目的明示) “By 2030, halt and reverse the unprecedented loss of biodiversity and put nature on a path to recovery for the benefit of all people and the planet.”
(d) 愛知ターゲット踏襲型) “Take effective and urgent measures to halt the loss of biological diversity in order to ensure, by 2030, that ecosystems are resilient and continue to provide essential services, ensuring in this way the variety of life of the planet and contributing to human well-being and the eradication of poverty”
(e) 主流化型) “By 2030, effectively integrate biodiversity into productive sectors and generate transformational changes in production and consumption patterns that allow the re-valuation of biodiversity and ecosystem services”
(f) 行動志向型+SDGs) “Implement solutions to address loss of biodiversity in order to increase the benefits that it provides to sustainable development”

<この議論の解釈>

要素を分解すると、「解決策を実施」という行動志向要素、「生物多様性の損失がとまる/回復の道筋に置く」という成果(状態)志向要素、さらにここでは、2030年までに損失を止めるのか/戻す/回復の道筋に置く(回復までは至らない)の3つのパターンがあります。

SBSTTA23で大事なのは、回復の道に置くというミッション設定は否定されなかった、すなわち、科学的・技術的に、今後の検討の選択肢となったということでしょう。

これに加え、人々[の利益][と地球]のためにという目的明示の要素とそこに3つくらいの組み合わせが表れています。他に、主流化や持続可能な開発(目標)といった要素も見て取れます。

二日目の夜のコンタクトグループでは、要素を盛り込むより、短めが良いという意見が多かったように思います。

ターゲット

ターゲットに関しては、テーマごとに表現ぶりのこだわりや、その理由が見えてきました。こういうことは、参加しないと分からないことであったので良かったと思います。

例えば、Restoration(復元)というキーワードを一つとってみても、単独で、Restorationという言葉を使うより、形容詞として、Ecological Restoration(生態学的復元)という言葉を使うべきだと主張する国がありました。その国が主張する理由は、「復元=何らかの形で人の力を使って取り戻される森林というとき、単に木が植わっていればよいというものではない。その森林が、その土地の中で生態学的機能・構造を持つことが大事。復元という国際目標を立てる際に“Ecologial(生態学的)”と明示することで、安易な単一植林(モノカルチャー)の復元を避けられるのではないか」といったような議論です。。

A.ターゲット全般に関する議論 (以下のまとめは、会議期間中のメモおよびL文書から作成しています)

IPBESグローバルアセスメントで指摘されたドライバーへの対策、ビジョン・ミッション含む全体の論理に筋道が立っていること、指標の有無などモニタリングのための情報が整っているかどうかも重要、循環経済(Circular economy)の重要性(考え方の重要性の私的であり、ターゲットそのものにすることは難しいという意見)、成果志向と行動志向とを意識してターゲットを設定するべき、先住民地域共同体にかかわる目標を横断的に設定する、などの意見が出されました。

B.ハビタット

生態系のほうが良いのではないか(ハビタットと生態系は条約の定義を使うべきではないかという意見も)、生態系の完全性、モザイク型の重要性、生産/農業/文化的景観も対象となるのでは、特定のハビタットに特化した目標設定(脆弱な生態系、土壌生物多様性、沿岸、サンゴ礁、山岳、湿地、原生、民有地、重要生物多様性地域(KBA)、保全と持続可能な利用と連続性

C.生物種

個体数の豊富さ(Abundance)(測定が難しいという意見あり)、種の持続可能な利用、気候変動に脆弱な種、ポリネーター(花粉媒介生物)、絶滅危惧種、種の危機リスク、普通種への注目、食料や農業と関連する種の野生種。

D.海も含む、土地利用の変化

保護地域などの自然保護を目的とした土地に関わる視点と、農地や都市などのランドスケープなど自然保護を目的にしていない土地(管理次第で自然との共生がはかれる土地)の視点と、劣化したり転換された土地の再生の視点などの3つが検討されました。

生息地の損失ではなく、生息地やハビタットの“改変”のほうが良いのではないか、生息地にかかける”計画“という用語もありうる、土地利用だけでなく水利用も影響が大きい、炭素貯蔵に有効な土壌の保全、ポジティブで行動志向型の表現がのぞましい、愛知ターゲット11はよくまとまっており、11に入っている要素を落とすべきではない。人と自然の共生圏(OECM)についての目標の充実。

生態系復元に明確なガイダンスを提供できるとよい。保護地域が雇用創出につながる事例もあり保護地域から生じる社会や経済循環も持続可能な開発目標と整合する重要な要素、先住民地域共同体の重要性、生態系復元の10年2021-2030との連動、森林だけでなく、あらゆるタイプの生態系の劣化の復元に注目するべき

E.過剰利用 消費と生産や、野生生物の捕獲、プレッシャーの要因になりそうな産業の指摘などがありました。

愛知ターゲット7のように過剰漁獲にかかわる特定セクターを指摘する可能性もありうる(林業、漁業や、主流化に関する長期アプローチを検討する助言機関(Mainstreaming-IAC)からのインプットも検討するべき)、慣習的持続可能な利用、持続可能な利用を含む資源利用(Exploitation)と、非持続可能な利用(または、過剰利用(Overexploitation)と混在してはいけない、ここでは、非持続可能な利用という用語を使うべきでは。

貿易を通じた危機要因や違法取引、奨励措置、消費者の態度変容など生物多様性条約ではなく、ワシントン条約やWTO等での役割で、生物多様性条約に制限した内容にすべきかどうかが議論となりました。ポスト2020目標は生物多様性全体(関連条約の)大きな指針になるものだから、科学技術的見地からも、現段階で条約間の役割分担云々などの制限を付けるべきではない、という意見に多くの賛同が集まりました。

F.外来種

島しょに関して目標設定または優先度設定をすることができるのではないか。意図的・非意図的導入。サブターゲットとして海洋の外来種対策の設定。非意図的導入や拡散。国レベルの科学ベースの規制。野生生物取引におけるリスクアセスメント。ネット取引。先住民地域共同体が早期警戒システムにとって重要な役割を果たすこと。早期予測と協力。政策提言、普及啓発。予防。国際協力。拡散影響のミティゲーション。人や家畜などへの病気など視点でのリスクアセスメント。淡水における外来種も優先課題。気候変動が及ぼす外来種侵入リスクの拡大。

G.気候変動

適応に伴う影響管理。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)との協力。気候変動対策によって生物多様性が危機にならないこと。気候変動影響の最小化やトレードオフ。緩和と適応によるリスク管理。気候変動による海洋沿岸のインパクト。気候変動と生物多様性政策のトレードオフのリスク。脆弱な生態系(サンゴ礁等)。泥炭地やマングローブ、海草藻場などカーボン貯蔵量が多い自然タイプの保全再生。自然災害リスク緩和。自然を基盤とした解決策(NBS)。都市の役割。海洋酸性化。気候変動政策と生物多様性政策のシナジー。生態系の脆弱性の対策。カーボンストックの向上。再生可能エネルギーを活用した適応。生態系の連続性や保護地域ネットワークの重要性。生態系機能(ファンクション)への通目。生態系ベースアプローチを気候変動対策に適用すること。生態系の規制サービスの協調。気候変動が引き起こす生物多様性の損失と、生物多様性のレジリエンス向上。シンプルなターゲットの重要性。生物種の空間的なシフト、気候変動によって失われる絶滅危惧。

H.汚染

環境と健康と生物多様性。都市化や産業化。科学ベースのリスクアセスメント。農業課題と技術協力。プラスチックの問題。毒物汚染(コンタミネーション)。科学的汚染、化学的汚染や、窒素汚染、ネオニコ、農薬などなどを細かく分類する必要。汚染源と多様なアプローチ。汚染源に伴う指標の重要性。海洋汚染源や農業や消費と生産、廃棄政策などの汚染源対策。光害や騒音など。農薬や化学肥料などによる科学ベースリスクアセスメント。技術移転。海中騒音。循環経済のメッセージの強化。循環経済の重要性(解決策として)。水銀条約(水俣条約)など、化学関係の条約との連携。連携。遺伝的汚染???。大気汚染。予防策とコントロール手法の視点。実践的な(実践可能な)アプローチが必要。

I.自然の利用や価値について:自然からの物質的財、規制サービス、非物質サービス、自然の内在的価値

規制的サービス、都市の緑地空間(Urban Green Space)、グリーンインフラ、生物安全保障、非物質サービスの高騰、生物多様性の経済的要素(自然資本会計、生態系勘定)。バイオ燃料や水力発電などの、エネルギーとしての価値。食料安全保障、ポリネーションの重要性。気候変動の規制サービス。淡水提供サービス(質的・量的)視点の重要性。伝統的知識や文化だけでなく、社会的価値も重要視したい。

持続可能な利用Sustainable use。会計(Accounting)でも、食べ物は、市場に流れずに直接消費されるので、とらえきれない。持続可能な利用が愛知ターゲットでうまくカバーできていない。

物質的NCP→暮らしだけでなく、ジョブや収入など。食料生産や林業などのために生態系サービス支払いに関する国内法制度を作るという目標はどうか。SDGsの達成に果たす自然の役割。

社会にとってなぜこの枠組みが重要かを理解してもらう意味で重要なパートであり、どう人々とコミュニケーションをするかというパートであると思う。

*ポスト2020枠組みの論理的整合性を確保することを忘れてはいけない、SMARTターゲットを設定できるかどうかという視点、枠組みのコミュニケーションのしやすさとターゲットの数の関係を検討する事が重要である。

遺伝資源から得られる利益の配分

愛知目標13と16を合わせても良いのではないか。DSIも入れられるのではないか(専門家会合の議論次第)。アクセスと利益配分の組み合わせが重要。遺伝資源の国内外の移動の把握や塩う状況のモニタリング。キャパビルとクリアリングハウスメカニズム。国内制度の構築やクリアリングハウスの充実が重要。MATの重要性。ABSを保全や持続可能な利用につなげていくことの重要性。

J.ツールや解決策やレバレッジの利く取り組み:奨励措置、法規制・政策、生物多様性の価値、変革のための手法

生物多様性オフセットとミティゲーションヒエラレルキー。全政府組織によるアプローチが重要。様々な農業システムの共存、生物多様性に貢献する農地面積を%で目標設定できないか。野生生物犯罪。主流化。環境に悪影響をおよぼす補助金。持続可能な消費と生産のところに循環経済(Circular economy)、総消費量の削減、ポジティブインセンティブ、生物多様性配慮の製品の支援、自然資本会計、情報、ランドスケープアプローチ、シンプルさと測定可能性の意識。科学と技術。生態系フットプリント→主流化。負の影響を持つ奨励処置は、生物多様保全の資金の10倍という統計があり、重要なテーマ。空間計画。持続可能なサプライチェーン。プレッシャー(生物多様性への負の圧力)・ステート(状態)・レスポンス(対策)というロジックの構築。主流化は、別のバスケットで議論したい。インフォドキュメント14が参考になる。世界レベルでできることとナショナルレベルでできることの整理。行動変容(Behavior Change)と専門家の巻き込み。ポジティブインセンティブからの利益配分。伝統的知識、普及。ランドスケープ・シースケーププランニング。循環経済。健康と生物多様性。世代間公正(INTEQ)、ジェンダー、SDGsのフォローアップ、ユース。

K.条件整備:国内計画プロセス、資源動員、能力養成、伝統的知識、知識と技術、普及啓発

資源動員・民間セクター向けのファイナンスや税制や情報開示、生物安全保障(バイオセーフティ)、資源動員やキャパビルを目標の中でも主流化すべき、指標とモニタリング、生物多様性観測システム、科学技術協力―知識と知識管理と、情報アクセス、指標になるものもあり、ターゲットになるものもあり、原則として確認するものもある。IPLCやジェンダーの視点は特に重要 普及啓発は人と自然をつなげることが大事。実施とレビューメカニズム。SBSTTAインフォドキュメント14の変革への道筋の成果を組み込みたい。知識創出と知識へのアクセス。目標間の相互関係性や目標と条件整備との相互関係性。普及啓発はコミュニケーションの強化を入れたい。新技術の可能性(バーコーディング)。実施とモニタリングー透明性と参加。普及啓発と教育の重要性を入れたい、カリキュラムの改善や若い世代からの教育。手段をベースとしたターゲットはあるべきことが明確になるので議論を深めるべき。戦略的影響評価、環境影響評価。市民社会の参加。FPIC(自由な状態での事前の情報に基づく同意)。グローバル・ナショナルだけでなく、リージョナルアプローチも重要である。生物多様性関連条約の共通的な報告システムの統合。次のSBSTTAで指標についてもっと議論を深めるべき。

L.横断的課題

第1回ポスト2020作業部会で特定したジェンダーやユース、世代間公平などを残すべき。

IUCN-J 道家鉄平