非政府組織・地方自治体の取組みをGBFとその実施に紐づける
非政府組織・地方自治体とGBF
2022年3月21日に、オランダ環境評価機関(PBL: PBL Netherlands Environmental Assessment Agency)、IDDRI(フランスのシンクタンク)、SciencesPo(フランスの社会科学大学)、アムステルダム自由大学環境研究所(IVM VU: Institute for Environmental Studies, VRIE UNIVERSITEIT AMSTERDAM)が共催した表記タイトルのサイドイベントに参加しました。
第一部では、IDDRIから本テーマに関して2回開催されたマルチステークホルダーワークショップの結果が、PBLから非政府組織のコミットメントおよび報告の信頼性向上に関する分析について説明がありました。
IDDRIの報告では、1970年からこれまでの生物多様性に関連するイニシアチブが1992年以降大幅に増加し、かつ政府と民間の連携および民間のみで構成されている割合が計60%まで増えていることが示されました。また、これを受け、「多国間主義(multilateralism)」から「複極間主義(polylateralism)」に協働の重心を移し、社会全体で生物多様性保全に取り組む必要性が提唱されました。
PBLの報告では、企業の生物多様性保全に関連するコミットメントの数に対し、報告されている比率は高くないことが示されました。これを踏まえ、企業活動が国の目標達成に貢献するには、NBSAPと紐づく科学的目標を設定し、既存の枠組を用いた情報開示を促すことが必要であると提唱されました。
パネリストの発言から
第二部では、IPLC、ビジネスイニシアチブ(BfN: Business for Nature)、地方自治体連合(ICLEI)の方から発言がありました。
IPLC: 変革をもたらす実施主体としての力は政府が持っている。国別報告書には非政府組織の取組みも含むべきだが、その報告責任については政府がきちんと規定しなければならない。
BfN: ビジネスの取組みはこの2年で急激に増えており、コミットメントだけでなく行動もしている。これらは自主的取組みだが、ビジネスの競争において「公平を保つ(level playing field)」ために必要なことであると認識している。報告は透明性と説明責任が重要と考えている。
ICLREI:昆明-シャルム・エル・シェイク宣言を踏まえ、地域での取組みを集約していきたい。
質疑応答
現場での質疑応答の中から、特徴的なものをご紹介します。
Q(NGOの方):企業は利益を追求する組織であり、先に紹介された耳障りの良い言葉とは裏腹に、現場では生物多様性を破壊している。これについてはどう考えるか?
A(BfN):それこそが共に解決したいことだ。もちろん簡単ではないことだと認識している。取組みにはコストがかかることから、持続可能な商品について消費者にその負担を認めてもらう必要もある。ぜひ我々の提言書を読み、問題点があれば指摘して欲しい。また、政府の有害補助金を公平に移行すれば、問題のある企業活動を止めることもできると考えている。
A(IPLC):開発行為については、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC: Free , prior and informed consent)」および「影響評価」が非常に重要である。これらはGBFに反映されなければならない。
A(ICLEI):ビジネスが変わるためにはインセンティブと啓発が重要と考える。
このやりとりからも分かるように、現場で生物多様性破壊の影響を受けている方々や、その問題に取り組んでいる組織は、その原因を作り出している企業に非常に強い嫌悪感を持っており、企業の生物多様性保全の取組みを「グリーンウォッシングである」と考えがちのように感じます。しかしながら「企業」を全て一括りにすることは、改善に取り組んでいる企業も敵視することになり、結果として生物多様性の改善を遅らせることにもなるのではないかと私は思います。第一部の発表にもあったように、多様な主体による前向きな協働が、生物多様性の損失をいち早く食い止め、反転させるために重要だと考えます。
宮本育昌
(国連生物多様性の10年市民ネットワーク)