化学物質・廃棄物・生物多様性

CBDの新たな試み

これまで、生物多様性条約(CBD)は生物多様性に関連する他の国際条約(例:ラムサール条約、ワシントン条約)との連携を進めてきました。今回、新たな試みとして、化学物質と廃棄物に関する国際条約である水俣条約(水銀に関する水俣条約)、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約)、ロッテルダム条約(国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約)、ストックホルム条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)とも連携し、サイドイベントを開催しました。これは、IPBSEにおいて「汚染」が生物多様性破壊の直接原因の一つと認識され、現在検討が進んでいるGBFの行動目標7に生物多様性への化学物質と廃棄物の影響への対処が盛り込まれていることと関連しています。

登壇者

登壇者

左からカルデナス-フィッシャー氏・ムレマ氏・アッシュ氏

左からカルデナス-フィッシャー氏・ムレマ氏・アッシュ氏

関連する報告書の紹介

このサイドイベントでは、ムレマ事務局長の挨拶の後、関連する2つの報告書について説明がありました。

まず、カルデナス-フィッシャー氏から、2021年5月21日に上記4条約がUNEPから発行した”INTERLINKAGES BETWEEN THE CHEMICALS AND WASTE MULTILATERAL ENVIRONMENTAL AGREEMENTS AND BIODIVERSITY: KEY INSIGHTS(化学物質と廃棄物の多国間環境協定と生物多様性の間の相互関係:重要な洞察)”より、それぞれの条約が管理している化学物質・廃棄物が生物多様性に及ぼす影響の概要について説明がありました。

農薬により絶滅の危機にある受粉媒介脊椎動物

農薬により絶滅の危機にある受粉媒介脊椎動物

次に、マーティン-ノベラ氏から、北欧理事会が2022年2月16日に発行した”Strengthening collaboration and coordination between biodiversity and chemicals and waste clusters(生物多様性と化学物質および廃棄物クラスター間のコラボレーションと調整の強化)”より、生物多様性・化学物質・廃棄物に共通した関心分野や、今後取るべき行動などについて説明がありました。

クラスター間で相互に関心のある主要分野

クラスター間で相互に関心のある主要分野

質疑応答

今回珍しく私が質問しましたので、その質疑についてご紹介します。

Q(宮本):化学物質・廃棄物に関する4条約には、それぞれ行動計画や目標があると認識している。また、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM: Strategic Approach to International Chemicals Management)において、新たな化学物質も含めたリスクアセスメントやそれらの管理について継続的に検討されていると理解している。生物多様性条約における関連する行動目標やその目標数値については、それらとの調和を取る必要があるのではないか?

A(ムレマ事務局長):それぞれの条約は、共通する締約国があり、その担当部署やフォーカルポイントが同じであることも多い。そのため、条約間の連携を考慮した共通政策が可能となっている。

A(マーティン-ノベラ氏):セクター毎の政策や、実践者とのエンゲージメントが課題だ。各セクターの業界団体と積極的に連携することが必要となる。セクターが違えば、グローバルな枠組みもスコープも異なる。CBDは、何年も農薬等について検討をしてきたが、この領域について力を持たない。農薬の制限などは、その分野に力を持つ他の条約が進めた方が良い。いずれの条約も環境の保全について共通の目的を持つので、最適化を行いたい。

日本の政府の担当者は省庁も部局も異なるので、ムレマ事務局長の発言とは状況が異なります。今後、国内でも関連する部局間での連携が進むことに期待したいと思います。

宮本育昌
(国連生物多様性の10年市民ネットワーク)