GBFは、政治決断の舞台へ 成否を見極める5つのポイント
12月2日の第5回ポスト2020枠組み作業部会から、あるいは、2019年1月に愛知県名古屋のCOP10会場でのアジア地域対話から始まったポスト2020枠組みの交渉は、18日の未明2時のコンタクトグループの終了をもって実務者協議が終わりました。成果文書はこちらからPDFが見られます。閣僚級の交渉で決着をつけることが、黄COP15議長(中国)より宣言されました。愛知名古屋でのCOP10を彷彿とさせる「2030世界目標」「資源動員」「DSI」そして報告・レビューメカニズムを議長提案という形でまとめる流れになっています。
現地時間の18日の朝8時までに議長提案文書(公開されるか不明)が出され、12時ころに提案への回答を各国閣僚に依頼することを予告されました(この会合が公開されるかどうかもまだ不明)。18日で大筋決着がつくのか、それとも19日になるのか、全く見通せない状況ですが、合意の成果を測る判断材料(NGO的評価軸)を紹介したいと思います。
1.数値目標か、定性的な目標か
愛知目標の反省の一つに、数値目標をもったターゲットが少なく、成果を測れない(分かりやすい数値がないので、努力の方向が一致しない)というものがありました。数値目標で言えば、30by30(陸と海の30%を保護地域またはその他の効果的な手段で管理される場所(OECM:日本では自然共生サイトという制度が試行中)が有名ですが、その他にも、行動目標2自然再生(20%または30%)、行動目標6外来種(侵入あるいは定着率の半減)、行動目標7汚染削減(過剰栄養塩の半減、農薬半減または3分の2、プラスチック)、行動目標8気候変動(10ギガトンのCO2吸収)、行動目標15ビジネスへの主流化(ビジネスによる影響の半減)、行動目標16持続可能な消費(グローバルフットプリントの半減)、行動目標18インセンティブ(有害補助金の500億ドル相当の改革)、行動目標19.1(資源動員200億ドル/年)などがあります。これらの数字の扱いは意欲度にも直結するGBFの重要な判断材料です
<オブザーバーの希望の反映>
政府や閣僚ではない、NGOや先住民地域共同体、ビジネスの声が反映されているかどうかも重要な視点です。例えば
2.先住民に配慮した行動目標3保護地域30by30
この目標では、何を30にカウントするかという議論の中で、先住民や伝統的な領域(Teritory)を”そのまま”30%にカウントしようという提案がありました。途上国から、先住民地域共同体の寄与があるのだから当然との主張だったのですが、先住民地域共同体からは、先住民地域共同体の自己決定無しに(あるいは、先住民への保障や支援策なしに)機械的にカウントして、30by30を満たそうという動きではないかとの懸念の声が上がり「先住民地域共同体に敬意を払った保護地域やOECMを30%」と修正したほしいと主張しています
3.公平な競争環境のための義務的開示を目指して 行動目標15ビジネスの主流化
この目標では、大企業や多国籍企業が開示するめるよう法的施策をうつにあたり、「義務的」要求も含めた、施策というような目標、特に、「義務的Mandetory」を求める声がビジネスから強いメッセージが出されています。途上国の一部の国が義務的を強く拒否して、非合意のカギカッコ[ ]が付されていますが、ビジネスの声を反映した決定がなされるか注目です。
4.自然に根差した解決策の推進 行動目標8と11
この目標では、IUCNやその加盟団体が推進する「自然に根差した解決策(Nature-based Solutions)」への言及が成されるかが重要な焦点となっています。気候変動の決定(先送り決定)では、共通だが差異ある責任原則を入れないと、NbSを入れるのに同意しないという、あまり論理的とも思えない交渉で、合意が破綻して先送りとなりましたが、GBFでどう記述されるのか、大変注目です。
5.意欲的目標に合わせた「資金」へのコミット
資源動員戦略では、このGBF達成のための新たな資金を、既存の地球環境ファシリティ―(GEF)の特別信託基金として設立するか(あるいは、全く新しい基金を設立するか)どうかが、閣僚級の判断にゆだねられています。この重要な課題に確かな道筋をつけられるかどうかも重要な評価材料です。しかし、仮に可能性の高いGEFに作ろうという決定になったとしても、先進国が求めるような多様なソースからの資源動員にはなりません(GEFは国からしか資金を受け取るフローがなく、民間からの受取には、内部手続きの変更が必要)。多くの資金が必要とする途上国の主張も妥当ですが、先進国が主張する多様な資金源からの資金が速やかに生物多様性の保全に回ることを確保することも重要です。GEFに新しい基金を作るのはそれではすぐに解決しないことから、多様な資金源からの資金確保のためのロードマップも重要な判断材料と言えるでしょう。
国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平(日本自然保護協会)