海洋沿岸生物多様性とEBSAのサイドイベント(5月1日)

海洋沿岸の生物多様性ですが、個人的にちゃんとフォローするのは初めてなので、非常に複雑な(技術的な)議論でした。議論の前提となるところからまとめたいと思います。

海洋沿岸の生物多様性に関する議論のポイントは、海洋に関して、領海/排他的経済水域/公海ごとに、誰が(どのフォーラムが)決定権を持っているかが非常に多岐にわたって、複雑なことがあります。例えば、国連総会の専門作業部会、UNCLOS(国連海洋法条約)、地域環境協定(オスロ・パリ条約OSPAR)、UN-IMO(国連海事機構)。その中で生物多様性条約がどんな役割を果たすべきか?ということが議論の中心になります。

この複雑な状況に対して、COP9、COP10の議論をへて、CBDは生物多様性に関する科学的知見を提供する役割、管理や対策に関しては現在国連総会の下に作られた特別作業部会が担うことになりました。その上で、COP9は生物多様性上重要な地域を特定するための「指針」を採択しました。

続くCOP10では、この指針に基づいて生態学的、生物学的に重要な地域(EBSA)を特定するワークショップを開くことになりました。COP10後、4つのワークショップが開かれ、100弱のEBSAのリストが作られました。

では、次に何をすれば良いかというのが、このSBSTTA16の議論の一つです。

重要海域(EBSA)のサイドイベントには参加者がぎっしり

サイドイベント:Brief Update on the Regional Workshop on the Description of Areas meeting EBSAは、EBSAワークショップの報告をするものでした。

重要海域(長いのでこのように略します)がどう進んでいるかということを説明し評価するためのサイドイベントで、Global Ocean Partnershipが情報の収集や分析などのために作られた。4つの海域の事例が紹介されました。

まずは基本認識。海洋とは、

・地球の大部分を占める領域。

・海山14,000から100,000もある。

・ヨーロッパとアジアが、かなり集中的に利用されている。

・75%のサメエイ類(軟骨魚類)が絶滅危惧種

・地球上の90%のバイオマスが海洋に存在。

・重要海域ワークショップは、ヨーロッパ、地中海、西南太平洋、ラテンアメリカが既に実施。インド洋とラテンアメリカ西側海域がワークショップの準備中。

以下、各地域の概要を紹介します。

 

西南太平洋の事例

西南太平洋の事例 英語報告書

・11月後半にフィジーでワークショップを実施。13カ国12団体が参加

・生物学的領域に基づいて100mの深さで実施

・10,000の島嶼が含まれる4千万平方キロメールが対象

・57のデータレイヤーを重ねて検証−物理的なものから重要海鳥地域などを重ねる。生物学的情報が少ない。

・EBSA基準との相関の強さを数段階に捉えて評価した。

・26の地域を特定、2地域を要検討と特定。

 

カリブ地域の事例 英語報告書

・ブラジルのRefifeで開催。23カ国15団体が参加

・Global open Ocean と 深海Deep seaとで調査をしてみた。

.ブラジル政府と条約事務局からの情報を専門家によるワークショップや議論などで編集検証し、最終報告書をまとめるという手順で実施。

・40のデータレイヤーをオーバーレイ。生物地理学、生物学的、物理的データを重ねていく手法は同じ。

 

北東大西洋 英語報告書

・フランスのHyeresで開催。

・18の地域、10の候補地が特定された。それらを、「EBSA基準に合致」、「ほぼ(likely)合致」、「専門家による判断で重要と特定」にわけた。

・海洋保護区になっているかどうかという分析も実施。

・3つの地域で、合致する基準が異なること、サイズも当然違う

 

地中海 英語報告書

・250万平方キロメートル 3.8%が保護地域。漁種の0.4%が回遊しない(地中海にねつきの魚類)

・全海洋0.3%の水量、0.8%の表面カバーと少ないが、7%の既知海洋種がおり、30%が固有種でって、ホットスポット25カ所あるうちの一つ。バルセロナ条約という地域協定で重要

・86のデータレイヤーを利用。10の地域を特定。バルセロナ条約締約国会議でも決議を出した。

 

EBSAワークショップをつうじて得られる効果について

・ワークショップを通じて、今手に入る情報の確認ができる

・ワークショップの多様な経験が次の経験につながる

・EBSAが事前に作成される場合があり、ワークショップを通じて改善を加えるという効果がある

・全員一致での決定がなされる

・国の専門家や海外の専門家が一緒に参加し、将来のコラボを呼び込む機会になる

・新たな研究の呼び水になる(優先的に調査すべき地域の特定)

 

情報の条件

・多様なソースから集められる必要がある

・深海に関する情報も含め 空間的な情報を含むべき

・多様なアプローチが用いられるべき

 

資金や時間の制約

情報が短い期間で集まるかという課題

良いスタートが切れたが、どう続けていくか、、、

 

次に向けて

・COP10決議はあくまでイニシャルステップにすぎない

・EBSAの改定や再評価の手続きについて合意する必要がある

・必要な海洋、生物、に関する情報の収集や集約や交換が必要

・総合的なアプローチの促進が必要

・地域的なキャパビルの開発が必要

・CBDのプロセスで、活動を検証し、必要な活動を決定するプロセスが重要だろう。

・グローバルネットワーク、リンケージのガイダンスをつくる必要がある

 

報告 (財)日本自然保護協会 IUCN-J事務局担当 道家哲平