第2回ポスト2020作業部会 2日目のポイント
2日目は、午前に、ポスト2020枠組みゼロドラフトに関する意見出しを、お昼に電子化された遺伝資源配列情報(DSI:Digital Sequence Information)の扱いについての情報提供セッションを行い、午後には、コンタクトグループ1として、ゴールについての議論が、夜(19:30)からコンタクトグループ2として、行動目標(Action Target)についての議論が行われました。
<ゼロドラフト>
ゼロドラフトへの意見出しで、第1回ポスト2020作業部会と違うなと感じたのは、国連機関や国際条約が数多く発言をしたことです。国連機関では、UNESCOや国連大学、FAO、UNHCR(人権に関する国連機関)、UNEP、UNDP、UNCTAD、ITTOが、国際条約では、ボン条約・ラムサール条約・ワシントン条約・植物遺伝子保存条約からの発言がありました。発言の基本は、ポスト2020枠組みの重要性と、各条約の法的仕組みや各機関が持っている能力・積み重ねたノウハウをポスト2020枠組みに活かしたいというものです。
ポスト2020枠組みは、生物多様性条約だけの枠組みではなく、国際社会全体の枠組みとして機能することを意識しているからこそと思われます。
CG1のポイント
コンタクトグループ1では、ゴールについて、意見出しが行われました。意見出しの後、①具体的な新たなゴールの“追加”案については、事務局に一度集約して、議長テキストを明日以降作り議論する、②既存ゴールの修正についてそのまま意見を出すという進行が行われました。具体的な文章を出し合うまでには至っていないのですが、グループ化して、少しまとめたいと思います。
前提として既存のゴール案に含まれている要素をまとめると下記になります。
2050年ビジョンを具体化したもので、生物多様性条約の3つの目的(保全、持続可能な利用、公正公平な利益配分)と、生物多様性の3要素(遺伝子、種、生態系)と、生物多様性が人にもたらす恵みの可視化、という要素を含めようとしています。このたくさんの要素を、共同議長案は、5つのゴール(生態系・種・遺伝的多様性という3ゴール+恵み(持続可能な利用)に関する1ゴール+利益配分に関する1ゴール)に整理する形で、起案しました。また、2050年の状態と2030年の状態を、一つの文章内に描くことによって「人と自然の共生」に向けた道筋(マイルストーン)も表現しようとしています。
この原案について出された意見(論点)は、
そもそも論
・そもそも、ポスト2020枠組みは、生物多様性条約の枠組みの中で議論するべきでは。他の国際協定の領域に踏み込むのは避けるべきではないか。(ブラジルとロシア)←EUとノルウェーが、COP14の決定では「多国間協定とシナジーを取るもの」としているので、そういう議論の制限は同意できないと主張。
*この議論は非常に重要な視点です。解説記事「条約の縄張りについて」も参考にしてください。
・ベースラインをしっかり議論しないと、数的目標のイメージが全く異なる。ブラジルとしては、2020年とかではなく(その時の開発の状況によって変わるので)、人の影響がなかった時をベースにするべきと思う。
構造への意見
・既存の構造を支持
・条約の3つの目的ごとにゴールの起草をした方が良いのではないか。
・2030ゴールは不要ではないか(←少数意見。原案の構造については肯定派が多い印象)
内容の精査
・ゴールの意欲度が低い(2030年までに、生態系の損失の動きを、総じてゼロ(No Net Loss)ではなく総じてプラス(Net Gain)にするべきではないか)。生物多様性危機の緊急性に応えるものにするべきでは。
・2030ゴールと、次に来る2030ターゲットの関係性が分かりにくいので明確化したい(意見多数)
・ゴールをもっと測定可能なものにするべきではないか
・ゴール(d)(生態系サービスが社会にいきわたった状態を示したサブゴール群)についてはたくさんの意見が出されました。それらは、もっとシンプルな書き方が良いという意見と、維持が良いという意見と、アクションターゲットや指標の精査が必要という意見と、持続可能な利用というコンセプトに寄せたゴールがよいのではないかと、自然と文化の関係に関する標記を入れてはどうか(日本←ベニンが支持)
ゴール要素の追加
・海洋に関するゴール像をもっと明確に書き込みたい(太平洋諸国)
・資源動員(ブラジルや途上国)
・持続可能な消費と生産
・生物多様性に関する価値
・バイオパイラシー
・生物文化多様性
・主流化
・行動目標のソリューションを受けた「社会の状態」(例えば、先住民地域共同体やジェンダーの視点など)に関するゴールの設定が必要ではないか
CG2のポイント
夜7時半から始まったコンタクトグループ2は、生物多様性の危機に応える行動目標について意見交換が行われました。3時間のうち2時間近くを、行動目標1にあてることになり、進行速度について懸念する声も上がりました。
夜のCGになると人が少なくなってきます
行動目標1
土地や海域の利用変化というIPBESレポートに応えようとする行動目標1の原案は、生態系の維持・復元を目指し、手法として、包括的空間計画の導入や、連続性の確保や生態系の完全性の確保などを挙げています。
コメントは多岐にわたるのですが、
空間計画(Spatial Planning)が何をさすかが分かりにくいという課題(そのため、もうすでに100%導入できているという国と、導入できているのに状況は改善していないから別の手法が重要だという国が混じりあって混乱していました)。また、連続性と完全性のコンセプトを入れたいという意見も出されました。
表現がない又は弱いとして、入れるべきだと指摘された追加的な要素としては、レジリエンス、生態系サービス、重要で脆弱な生態系、生産生態系、先住民地域共同体の土地への尊重、農業、などに関する要素が提案されました。
ターゲット1と2を作り直すという意見(1を保護地域とランドスケープアプローチ、2を復元にするという、日本提案)も、説得力ありそうというコメントも出ました。
行動目標2
行動目標2は、保護地域やOECMに関するものとなっています。この目標案の要素としては、特に重要な場所を、保護地域やOECMでカバーすること、面積を広げていくこと、特定の面積を厳格に保全することなどの要素が入っています。
多くの国が、効果的な管理や、公正な管理といった、保護地域の質の要素を入れたいという意見が出されました。すなわち、この目標が愛知目標11の後継目標と見られ、愛知目標11でカバーされていた要素を復活させたいという意見が多かったと思います。ただ、復活させるだけでなく、各要素の意欲度を高める必要があるという力強い意見も出ました。
それに加え、“特に重要な地域”として、重要生物多様性地域(Key Biodiversity Area)や生態学上重要な海域(EBSA)のことか、それ以外の場所かという定義についての質問も相次ぎました。
厳格な保護(Strict protection)については、意見が分かれていました。聖域のような考え方の保護区もあると理解を示す国もあるが、自然の特性に合わせて効果的に保全すると言えばよいのではないか、とう意見です。例えば、原生的な環境を残し続ける保護区なら、人の手を入れることを厳しくコントロールする必要があるでしょうが、里山のようなところのStrict Conservationとは何を意味するのかが分かりにくいという趣旨の意見です。IUCNも同様の意見で、削除を提案していました。
OECMに加え、保全地域または先住民地域共同体管理地域(Indigenous Community Conserved Area)も入れたいという意見も出ました。
道家哲平(IUCN-J事務局長/日本自然保護協会)
*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。