第2回ポスト2020作業部会ーどんな成果が得られたか

第2回ポスト2020作業部会が終了しました。

決定文書は、会議成果の確認(ポスト2020枠組みゼロドラフトについて出された意見や修正案をまとめた文書‐合意されてはいない)と、この成果を受けた今後の進め方について、事務局や共同議長、第24回科学技術助言補助機関会合等などの今後続く会合への申し送り事項がまとめられました。事務局への追加的な要請としては、今回の成果とSDGsとの関連性を分析し、SBSTTAに提供することなどが入っています。

終日良い天気に恵まれました。

期間中、良い天気に恵まれたローマ

付属書(Annex)に書かれた、コンタクトグループの成果は、ゴールやターゲット、実施に関するセクション(E~H)の追加文書や修正案について幅広い意見が出されています

今後のスケジュール

・第24回科学技術助言補助機関会合(5月18日から23日@モントリオール) - ポスト2020枠組みの、ゴール及びターゲット、ベースライン、モニタリング枠組みを、科学技術的視点から検証。*ポスト2020枠組み以外の議論もあります。

・第3回条約の実施に関する補助機関会合(5月25日ー30日@モントリオール) - ポスト2020枠組みのポスト2020枠組みの、「資源動員等含む、実施や実施のメカニズム」に関係する、ゴール及びターゲット、ベースライン、モニタリング枠組みについて、検証。*ポスト2020枠組み以外の議論もあります。

・第3回ポスト2020作業部会(7月27-31日@カリ、コロンビア) - ポスト2020枠組みを、1行ずつ検証しながら、COP15の決定案(ほぼほぼ合意事項もあれば、選択肢なども含まれた案)を作成する。

・第15回締約国会合(10月15日から28日@昆明・中国) - ポスト2020枠組みの合意

おおきく振り返ると

第2回ポスト2020作業部会を大きな視点で振り返ると、下記のようにまとめられます。*下記は、報告者の見解です。

一番重要な振り返りは、この生物多様性の危機的状況に対して、意欲的に取り組むかどうかを先送りした、ということだと思います。愛知目標が達成に至らなかったのは目標の書き方がダメだったからでしょうか。ポスト2020枠組みについて内容の掘り下げが行われましたのは間違いありませんが、次の10年の希望が得られる枠組みまでは、道のりは遠そうです。もう少し捕捉すると、

・1月13日に発表されたゼロドラフトについて意見交換が行われ、多様な視点とともに、次の目標にアイディア
・多様な視点は示されましたが、「内容の具体性(締約国間の共通の理解を持てているのか)」「行動可能かどうかの具体性」「測定可能かどうか」「意欲的かどうか」「数的目標が妥当かどうか」「意欲的な数値目標かどうか」「ベースラインはあるのか、どの時点を設定できるのか」などを元にした検討は、次の交渉会合に持ち越された。
・全部出されたかは不明ですが、途上国・先進国から、交渉カードが切られ、大きな対立点が見えた。

大きな対立点とそこから見える次の世界目標

1. ベースライン

「具体的な議論はSBSTTAで行いましょう」ということになったベースライン。例えば、森林生態系を50%復元しましょうという目標を設定するとき、どこを起点(ベースライン)にするかという内容です。ブラジルは「人の影響が出始める前の自然の状態」からと主張しました。ここの背景にあるのは、先進国と途上国の発展の段階をどこに決めるのかという考えがあると思われます。

例えばベースを“2020年”としたときに、国土の開発状況は、先進国と途上国で大きく異なります。経済的や社会インフラが発展した国と、まだまだ経済や社会を発展させたい(そのために、インフラや都市が広がっていく)という国とで、共通の目標を設定することへの不満や「途上国を食い物にして発展した先進国」という歴史が不公平感が透けて見えてきます。ブラジルの「人の影響がない時」という主張は、全ての国がある意味公平に「ゼロ」のところで議論しようという思いではないかと考えます。
会合の中で、何度か、CBDR(共通だが差異ある責任)について話題となりました(参照「CBDRと本会議での議論」)。乱暴にいえば、差異の生じてないところまで戻りましょうという主張と言えるかもしれません。

2.資源動員

資源を巡る議論も差が見えました。途上国中心に、新規の追加的な資源動員と資源の“提供”の必要性を主張しました。ブラジルは「先進国から途上国への支援額をX%伸ばすという目標ではなく、“1000億円(XビリオンUSD)単位の資金増”という具体的な資金額の目標を設定するべきとしました。また、資金だけの、資源動員ではなく、科学技術協力や技術移転、能力養成機会の提供などの「非資金的“な資源動員の必要性を主張しました。

先進国(EUなど)は、専門家会合の議論を待ちたいとしつつ、先進国から途上国という「国から国」の資源だけでなく、途上国も頑張る必要があるとして「各国の国内レベルでの資源動員」「そもそも必要な資源を減らす、既存の資源の効率化」や、主流化の推進やESG投資の改善などを通じて民間からの貢献額を増やすというアイディアを示しました。
もう一つ注目したいのが、ブラジル(そこに、アフリカ諸国が乗っかる形で)“生態系支払い(Payment Ecosystem Service)”の推進という提案が、様々なところで行われたことです。生態系支払いは、日本だと、森林環境税でイメージしやすいように「森林が生み出す清浄な水などの生態系サービスの提供を受ける都市住民に課税し、集められた税金を上流域の森林保全に活用する、といった流域やあるいは都道府県単位等で行われるもの」を想起されます。ブラジルが行おうとしていた提案は「グローバル生態系支払い」と思われ、豊かな生態系を保持している途上国に、利用している先進国が資金を提供するもの、につなげようというアイディアと思われます。

気候変動枠組み条約(CO2の世界)では、アマゾンの森林を保全することで「将来発生したかもしれないCO2排出量を抑制した」として先進国と取引できるCO2排出クレジットが発生しますが、生物多様性条約の世界でも、資源を得られるようにしたいと言えるような提案かもしれません。

3.変革(Transformative Change)か、合意されたテキストか?

利益配分(Benefit Sharing)は、今まで、“遺伝資源のアクセスとそこから得られた利益”を配分するという枠組みでした(合意され、批准された、条約の条文上)。途上国からは、それを、生物資源も対象とすべきという提案がありました。これは条約の既存の規定を超える内容ですが、そのような資源の保持者と利用者との利益配分を、禁止する条文もありません。これまでの合意を超えないようにするのか、もっと踏み込んだ議論をするのかという議論ともいえます。

この種の議論は、遺伝資源の取得の機会促進と利益配分(ABS)や、生物安全保障(遺伝子組み換え生物・カルタヘナ議定書)に関わりそうなゴールやターゲットのところで出てきました。通常は積み重ねた合意が基本でしょう。

しかし、生物多様性条約は25年以上機能し、掲げる目的の実現に向けて多くの進展を出してきましたが、SDGsやIPBESグローバルレポートで、「変革が必要」と結論付けられました。社会変革とはどう起きるのかという難しい課題と言えます。

道家哲平(IUCN-J事務局長/日本自然保護協会)

*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。