SBI1 生物多様性日本基金の成果
条約実施補助機関(SBI)では、愛知ターゲットの達成に向けて世界各国でどのような活動が展開されているかという「外側」の実施状況だけでなく、生物多様性条約の事務局体制・予算配分などの「内側」の実施状況も検証されます。愛知ターゲットが大きな変化をもたらしたことを紹介してきましたが、この「内側の実施」にも日本は大きく貢献しています。それが、「生物多様性日本基金」です。
にじゅうまるプロジェクトでは、国際会議レポートの中で、何度も生物多様性条約の会議のレポートをし、会議の進行方法などを解説してきましたが、今回は、お金から見た生物多様性条約の運営がどうなっているかということを紹介してこなかったのでご紹介します。
生物多様性条約の取り組みを支えるお財布は、コア予算、追加的予算、途上国参加費支援基金、先住民参加費支援基金の4つからなります。議定書のお金も同じです。これらの予算はCOPの場で2年間分を承認することになっています。コア予算は、一度承認されたら、国連へ供出金の割合なども使って各国が供出すべき資金を決めます。コア予算は、スタッフ人件費(60%)、旅費(3%)、会議費(11%)、事務局維持費(13%)、管理・運用資金(14%)の割合で使用されます。 2015−2016年のコア予算総額は28,626,300ドル(約29億円)となります。COP8で承認された2007−2008が22,403,000ドル(約23億円)なので拡大を続けています。
コア予算だけでは、COPやSBSTTAを開催することはできても、事業(例えば、GBO4を作成する、重要海域(EBSA)特定のためのワークショップ)ができませんので、追加的予算が議論されます。追加予算は、コア予算とは異なり、締約国やその他ドナーの任意(Voluntary)の供出金を資金源として予算が承認されます。 2015−2016年の追加的予算(Voluntary fund)は31,234,900ドル(約32億円)が承認されています。使い道としては、能力養成や地域・世界レベルのワークショップに45%を使用し、18%を人件費、12%をコンサル委託費などに回しています。
ところが、この追加的予算は、2007-2008年で5,781,900(約6億円)でした。現在の6分の1です。過去と比べて事業予算5倍(!)を支えたのは、会議の最中、常に感謝の言葉がかけられる生物多様性日本基金(Japan Biodiversity Fund)です。生物多様性日本基金は5年間分として5000万ドル(50億円)が用意され、必要に応じて、この追加的予算に充当されます。このおかげで、追加的予算は2100万ドル(2011-2012)、2900万ドル(2013−2014)と高い水準をCOP10以降キープしています(*増額分すべてが日本基金からの供出金というわけではありません)
愛知ターゲットと生物多様性日本基金は、いわば車のボディーとエンジンとなって、COP10以降の生物多様性条約の活発な活動を日本が支えてきました。この貢献は、あまり日本では知られていないのですが、数字で見ると非常に大きな原動力であることが理解できるのではないでしょうか。とはいえ、過去の5倍の事業規模で仕事をしながら、愛知ターゲット達成にはさらに2倍の取り組みが必要ともいわれていることから、資金の有効活用なども今回のSBIでは議論されています。
日本基金は元は日本国民の税金です。時時の首相が国際会議で「〇〇の取り組みに、◯億円の支援を表明」というニュースを聞くと、多くの方は、他人事のように感じてしまうかもしれません。その後、どうなったかという検証もなかなか報じられません。もちろん、常に改善点も模索しなければいけませんが、少なくとも生物多様性日本基金は非常に大きな成果をもたらしたと思っています。
(公財)日本自然保護協会・IUCN-J事務局長 道家哲平