愛知目標は未達。5000名の科学者が結論。政府はどう応えるのか?-SBSTTA2日目

SBSTTA2日目は、愛知ターゲットのフォローアップ・保護地域・海洋の3テーマについて各国から意見が出されました。

NGOミーティングの様子

NGOミーティングの様子

愛知ターゲットのフォローアップ

冒頭、今年3月にコロンビアで開かれた生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES。生物多様性版のIPCC)第6回総会では世界4地域別(アジア・オセアニア、アフリカ、南北アメリカ、ヨーロッパ・中央アジア)の生態系評価の成果が発表されました。この評価は、500名の研究者が関与し、50,000近い学術論文を精査する形で、各地域の生態系の現状を評価したものです。

非常に包括的な調査のため、さまざまな発見が得られたのですが、結論を端的に言うと「生物多様性損失につながるプレッシャーは引き続き増加傾向にあり、全地域で生物多様性は劣化している。対策のための実践は増えているにもかかわらず、劣化傾向はとどまっておらず、今のままでは愛知ターゲットは未達成のまま2020年を迎えることになる」というものでした。

生物多様性の傾向を示す図(IPBES地域レポート)ほぼすべてで、レッドシグナル

生物多様性の傾向を示す図(IPBES地域レポート)ほぼすべてで、レッドシグナル

続く各国からの発言では、この結論に多くの国が危機感を表明し、残り2年間の短期行動計画を作ってCOP14で採択する、能力養成の取り組みの強化、特に進展の遅い目標に絞って取り組みを加速するなどのアイディアを提案。ブラジル政府からは、各国で重要生物多様性地域(Key Biodiversity Area。絶滅危惧種が集中的に生育生息・活用する場所)を特定し保護区化することで、愛知目標11と12の同時達成を目指そうというより具体的なアイディアも出されました。

日本政府団の会場での発言としては、特に危機感の表明もなく、生物多様性の世界指標の元データのありかをまとめるよう事務局に指示する内容の提案をしました(口頭発言を聞いたのみで、発言後に書面提出された正式意見には、もう少し内容があるかもしれません)

IUCN、NGOやユースからは、目標を設定し、行動を続けているのに成果が出せていないという議論を2008年(愛知ターゲットができる前)にもしている。同じことを何十年も繰り返すべきではない。COP14では、残り2年間のための具体的な行動計画を採択する必要があるということを強調しました。

保護地域

今回、保護地域については、愛知ターゲットの11(*)の中で面積以外の要素、他の地域ベースの効果的な保全手法(OECM)、効果的な管理、陸海の景観との統合というキーワードについて議論する予定です。

決議案の付属文書には、自発的ガイダンスの付属文書として、「保護地域をより広域の(海と陸)景観に組み込む方法についての自発的ガイダンス」、「保護地域の効果的な管理とガバナンス」、「その他の効果的な地域ベースの保全手法(OECM)の定義や特定や管理方法」、「海洋における愛知目標11の考慮」という4文書の採用が提案されています。

これらのテーマは、COP10で交渉してまとまった文章であるにもかかわらず、内容等が曖昧であっため、その内容を明確にするための自発的なガイダンスが必要との提案をCOP13で受けての取り組みとなります。自発的なガイダンスVoluntary Guidanceというのは聞きなれない言葉ですが、必ず従わなければならないものではないことを強調するために、自発的Voluntaryという言葉が使われています。

この中でも注目はOECMという考え方です。過去にも経過を報告しましたが、今回文書として具体化し、COP14での決議を目指します。この概念と手法はうまく使えば、国が法律に基づいて設立する自然保護の場所(国立公園や鳥獣保護区など)以外の、民間のトラスト・野鳥保護区などの企業所有地が世界の自然保護区として認められる道が開けます。

OECMに関する合意文書に向けて大きな一歩であるという高評価を各国述べていました。ほかには、先住民地域共同体が守ったり、管理したりしている地域の記述、とりわけ、自由意志での事前の情報提供に基づく同意(FreePIC)の記述の追加や、OECMの特定や管理のためのキャパシティ・ビルディングの記述を望む声が途上国中心に出てきました。また、海洋沿岸の保護区の設立について取り組みを強化する声もありました。

日本政府代表団は、主にOECMにある指導原則の各国の状況に合わせた柔軟な運用の必要性を提起しました。国立公園満喫プロジェクトや、2013年に日本が主導して作ったアジア保護地域パートナーシップでは、アジアの協働型管理を世界に発信するとしていたように認識しているのですが、今回強調する必要はないと判断されたのか(保護地域の効果的な管理とガバナンスの議題はあるので)、特段の発言はなかったように思います。(口頭発言を聞いたのみで、発言後に書面提出された正式意見には、もう少し内容があるかもしれません)

個人的には、COP10で、OECMという新しい考え方を導入してから、8年後にやっと定義を作るということに疑問も覚えますが、OECMは日本の自然保護にも大きな影響を及ぼすアプローチだと考えられます。

愛知目標11(保護地域)と12(絶滅危惧種)の同時達成手法についてのサイドイベントの様子

愛知目標11(保護地域)と12(絶滅危惧種)の同時達成手法についてのサイドイベントの様子

道家哲平(日本自然保護協会/IUCN-J事務局長)
*今回の情報収集は、環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施します。