3日目(23日)の動き
全6日間の交渉の折り返し地点である3日目の動きを紹介します。昨日から、同時並行で二つの会議が進行されるようになり、午前は、ゴールDと、CGのFriends of Chair会合で行動目標1(空間計画)を、お昼に行動目標13(ABS)のFoC会合、午後にターゲット18(奨励措置)と19(資源動員)、および、セクションJ(計画・報告・改良)、夜にセクションAーEと、行動目標8と1が議論されました。
全体を通してみると、飾り(各国の主張)をつけすぎたクリスマスツリーとなった目標は、明らかに冗長(定期的継続的に毎年増やす、のように毎年と表現しているから継続的は不要)や、細すぎる注記(~WTOルールも考慮しながら)や重複している文言を、合意しながら削除し、焦点だけを残すという作業を進めるパターン、各国のコメントが止まらず再び、着飾ったクリスマスツリーを作るパターン、特定の言葉について歩み寄りなく2~3時間を消費するパターンなどが観られます。ジュネーブ会合で2歩後退したものが3歩進み、ナイロビで3歩(しかし、皆ばらばらの方に)進んで、2歩下がることを余儀なくされる状況です。
<ゴールAあるいは行動目標1>
かなりの時間を割きながら議論が前に進まないのは、「場」の言葉使いです。生物多様性配慮の空間計画(土地利用計画、都市計画のようなもの)を100%あるいは50%と作るという場の言い方については、land area 対 terristrial ecosystemというアプローチの対立があります。land areaは物理的な場所、地球の陸地を指す言葉に対して、terristrial ecosystemは森林生態系、草原生態系といった何らかの自然が想起される言葉です。例えば「都市」という空間を想定するとlandは範疇に入りますが、terristrial ecosystemは含まれないような気がします。気がしますというのは用語の定義次第ということもあり、用語集の書き方では歩み寄りが可能なのかもしれません
さらに問題なのは、ocean area 対 marine ecosystemです。oceanは全海域すなわちどこの国の領海にも属さない海も含み、marine ecosystemは、愛知ターゲットにもある表現で、領海ないしはEEZを含む表現となります。どこの国にも属さない海の生物多様性の扱いについては、国連海洋法条約の改定作業、通称BBNJ(Biodiversity Beyond National Jurisdiction)、という国連交渉が進んでいて、その成果を待つ、あるいは、国連海洋法条約内の仕事として、生物多様性条約では扱わないという方向になり得る可能性を持っています。生物多様性条約のミッションと、生物多様性条約上の縛り(領海以外の海域は条約範疇の外とする条約第4条)の間をどうするか非常に難しい課題にとらわれて、その他の課題にはなかなか進んでいないのが、現状です。
<行動目標18 インセンティブ(奨励措置)>
[Identify,] [redirect, repurpose to nature-positive activities, domestically and internationally,] [Eliminate,] [substantially] phase out or reform incentives harmful for biodiversity, [including all harmful subsidies] [in a just, effective and equitable way,] [in a manner consistent with WTO rules,] [taking into account national socio-economic conditions,] [while substantially and progressively] reducing them [by at least US$ 500 billion per year], including all of the most harmful subsidies, [and ensure that financial savings are channelled to support biodiversity prioritizing the stewardship of IPLCs, smallholder producers, and women]] and ensure that positive incentives[, including public and private economic and regulatory incentives,] are scaled up, consistent and in harmony with the Convention and other relevant international obligations. (これと同じ文字量の代替案が2つ存在)という、カギカッコだらけでわかりにくくなったこの目標ですが、ざっくり表現すると生物多様性に悪影響のある資金の流れを変え、好影響のある資金を増やすことを目指すものです。用語の使い方や、表現方法などの模索が行われました
・資金の流れは、奨励措置(Incentives)、補助金(Subsidies)のどちらの用語か
・「流れを変え」の言い方は、撤廃(eliminate)、段階的廃止(Phase out)、改革(Reform)のどちらか
・悪影響のある補助金として、特に農業や漁業という言葉を入れるかどうか
・全ての奨励措置を生物多様性にポジティブか、中立にするといった表現を入れるか,好影響のある資金を増やすという表現を入れるか、 両方か
等を主な論点として残す形で、文章の整理が行われました。
<行動目標8 気候変動>
Minimize the impact of climate change on biodiversity, contribute to mitigation, adaptation and resilience including through [nature-based solutions] and [ecosystem-based approaches], and ensure that all mitigation and adaptation efforts avoid negative impacts on biodiversity. という原案ですが、海洋酸性化という文言を入れるか、”共通だが差異ある責任に則って”影響を最小化するという表現とするか、炭素貯蔵量の多い生態系(森林、マングローブ、泥炭地)がもつ、CO2吸収、固定能力を入れるかどうか(自然再生の目標と重なる)などが論点となっています。一部の国が一度消した数値目標、「自然を守ることで年間10ギガトンのCO2貯蔵に寄与する」を復活させようとして賛否の声も上がりました。
日本自然保護協会・国際自然保護連合日本委員会
道家哲平