ビジネス関連サイドイベント その1

今回のCOPでは、ビジネス関連のサイドイベントがとても多く開催されました。公式サイドイベント、Business and Biodiversity Day、CEPA Fair/Rio Pavilionの他に、初開催となるFinance Day、そして展示会場のAuditorium, Place Québec (Large room & Small room)、Business and Finance Hub、Place Québec Auditorium, GEFなどの国際会議場の中だけでなく、外のホテルの会議室でも並行して様々なイベントが行われました。

ビジネス関連サイドイベントが増加した背景

まず、このような動向になっている背景をご説明します。

生物多様性条約の会合では、ほぼ常に「生物多様性を保全するための資金が足りない」という主張が主に発展途上国からなされています。ところが、締約国の公的資金(先進国のODAや地球環境ファシリティ(GEF))はなかなか増やすことができないため、民間資金に期待する声が高まっています。

このような動きを先取りしているのが、気候危機への対応です。2015年に気候変動枠組条約でパリ協定が採択されて以降、気候危機への対応に民間資金を動員する動きが加速的に進みました。その一つとして、金融・企業に対する規制を強化し、資金の流れを変える、という動きがあります。例えば欧州では、EUタクソノミーで「何がグリーンな取り組みか」を定め、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)により金融機関に気候関連等の情報開示としてEUタクソノミーに適合した投資比率等を開示させると共にその比率を高めることを求めています。そして、金融がどこに投資すれば良いかを判断できるようにするため、企業持続可能性報告指令(CSRD))による企業への情報開示が来年から施行されます。

このような流れを受け、気候変動COPでは、近年CO2吸収源としての自然(ex. 森林、湿地、海洋など)の重要性の認識が急激に高まっており、「気候と自然はコインの両面」という言葉を耳にすることが増えてきました。この流れの中で、生物多様性を含む「自然」についても、気候同様の手法により民間資金を動員しようという動きとなっています。これが今回のCBD COP15におけるビジネス関連イベントの増加につながっていると考えています。

キーワードその1 ”mandatory”

多くのビジネス関連イベントで聞かれたキーワードの一つに“mandatory”があります。これは、GBF行動目標15の案において、金融・企業に対して自然に関する何らかの情報開示について“mandatory requirement(義務として要求する)”という部分を強く主張するものです。この主張“Make it mandatory”は、Business for Nature(BfN)というキャンペーン組織が主導しており、日本の企業も含めて52ヶ国の330以上の金融・企業が賛同しています。

COP15にはBfNのパートナー組織も多くイベントを企画しており、そこで登壇者の誰かが必ず“mandatory”と発言する、という構図になっています。私は参加したビジネス関連イベントのほぼ全てにおいて“mandatory”について聞いたように思います。

GEF主催イベントで発言するBfNエグゼクティブディレクターEva Zabey氏

GEF主催イベントで発言するBfNエグゼクティブディレクターEva Zabey氏

キーワードその2 ”TNFD”

その次に聞くことが多かったのではないかと思うのが“TNFD”です。TNFDはTaskforce on Nature-Related Financial Disclosures (自然関連財務情報開示タスクフォース)の略で、気候変動における情報開示枠組として多くの金融・企業が使っている”TCFD (Taskforce on Climate-related Financial Disclosures”に倣い、その枠組みを踏まえて自然に関するビジネス・金融の影響と依存、リスクと機会を開示する枠組を提供しようとする試みです。現在、β0.3版の枠組案が開示されており、来年3月のβ0.4版開示を踏まえ、9月に第1版として公開される予定です。

TNFD主催イベントで発言するTNFDテクニカルディレクターEmily McKenzie氏

TNFD主催イベントで発言するTNFDテクニカルディレクターEmily McKenzie氏

個々のサイドイベントについては、別途ご紹介したいと思います。

宮本育昌
(NPO法人アースデイ・エブリデイ)