SBSTTA 2日目 合成生物学

COP10のときに日本各地から集められたメッセージを条約事務局で発見。

SBSTTA2日目の午後は、新規の緊急課題として、合成生物学(Synthetic Biology)を扱いました。

会議文書はこちら

合成生物学は、遺伝仕組み替え技術だけでなく、新しい分子生物学の技術も使う形で起きている新しい学問領域のようです。(NGO会合の議論も参照)

論点としては、新規の緊急課題という基準に合致するか?SBSTTAで判断できる程度の情報がそろっているか?合成生物学の成果物としてでてきた生物を条約で扱うのか?カルタヘナ議定書の仕組みで扱うのか、既存の仕組みの強化の必要性?名古屋議定書との関係は?リスクアセスメントは生態学的なリスクのみか社会経済学的視点も含めるか?予防原則の扱いは?などです。

ブラジルなどは、この技術の推進の立場なのか、SBSTTAでの扱い予防原則の適用などに疑問を提示し、途上国の多くは、ルールが明確になるまでフィールドテストも含む環境下の放出に強い懸念を示す立場のようです。そもそも、遺伝子組み換え技術による食料問題などの地球規模課題を解決しようというアプローチそのものへの疑問の声もありました。欧州は、少し立場が異なるものの、中間的な印象で、新しい技術が持つ可能性は否定しない一方、適正ルールの確立のためのアプローチを提案しているように思いました。日本は、ブラジルの立場に近く、SBSTTAで議論する必要がないという意見のようでした(カルタヘナ議定書で扱うということでしょうか、、、)。

 

各国の意見

ブラジル:合成生物学の課題は、新規の緊急課題の基準に合致すると思えない。国際的なNGOの懸念事項であることは理解しているが、科学的な情報が少なすぎる。予防原則を適用するのは適切でないと考える。SBSTTAの議題は多いので、新しいのを入れるべきではない

フランス:合成生物学は非常に複雑な課題。バランスのとれた事務局の文書に感謝と、サポート。リスクアセスメントが必要ということも重要。リスクアセスメントのプロセスのシステムを強化する必要。

合成生物学が、生物多様性だけでなく、食料安全保障や人類の健康の視点からもアセスメント(国際ルール)の対象とすべき。資金なしではリスクアセスメントができない。リクスアセスメント技術の向上も必要

コスタリカ:過去10年間議論してきた。コスタリカ内でも検討会議がある。GMOと近い文脈。合成生物学成果物の環境下への放出は非常に危険で、極力早い規制が必要

メキシコ:オープンダイアログを実施。特徴から。バイオテクノロジーと同様の技術が使われており、カルタヘナ議定書で扱われるべき問題と考える。この課題はカルタヘナ議定書で議論するべき。これらの議論は、環境下への放出される前に行うべき。取り扱いについてのガイダンスが必要。これに関する新しい情報はクリアリングハウスメカニズムで共有されるべき

ライベリア:この技術の明確な定義がこの会議体で検討するために必要だが、事務局の文書がかなりカバーできている。生物工学を中心とした技術を活用している。バイオ燃料などへの提供も考えられている。環境下放出は、世界レベルの透明性のあるルールができるまでは制限する。生態学的、社会経済学的、影響のアセスメントが透明な手続の中で実施されなければならない。事務局長に、合成生物学にどう取り組むべきかを検討する専門家会議を開く、食料安全保障を扱う機関にも協力要請

マレーシア:予防原則を採用するべき。ルールやアセスメント、規制的仕組みの構築が終わるまで、フィールドテストを含めた環境下への放出を規制するべき。メキシコのいうように、カルタヘナ議定書で扱うと単純にいえる気がしないので、検討する必要(道)

アフリカ(エチオピア):予防原則と、過去の決議にそう形で決定されるべき。新規の緊急課題とする決定を既にしている(ブラジルへの批判かな?)。カルタヘナ議定書ですべてがカバーされていない。先住民への影響、合成生物学は新しいガイドが必要。そしてそのガイダンスが無い限りリスクアセスメントができない。そのため、グルーバルレベルでの、透明で、一貫性のあるルールが無い限り、環境かへの放出等はなされてはならない。

フィリピン:予防原則の適用を求める。法律専門家によって既存のアセスメントでこの技術が評価できるか検討してほしい。新しい技術がメリットをもたらすという文章は削除すべき。

スイス:GMOレジームは、合成生物学をカバーできる。予防原則の適用は必要。新しい科学的技術の進展を妨げないために、いくつかの修正を提案したい。テストに際して、確固たる科学的リスクアセスメントと、そのテストの便益評価を行うべき

EU:合成生物学は新規の緊急課題の基準に合致。合成生物学の定義を、CBDやカルタヘナ議定書や名古屋議定書の経験を生かして実施し、ポジティブな面もネガティブな面の評価が必要。合成生物学がもつ、メリットやデメリットについてさらに情報集めるべき(SBSTTA19で議論する)。

メガ生物多様性国:合成生物学は、科学的情報や確証が不十分である。メリットもそのリスク管理が可能かどうかも考慮すべき。愛知ターゲットの達成という野心的な目標を掲げ、多くの事業を展開し、財政の限界もある。適切なガイダンスが必要。IPBESのキャパビル

日本:メキシコの意見を採用(カルタヘナ議定書でカバーできる)。COP9の新規の緊急課題の定義から、ブラジルを支持し、これ以上議論をするべきではない。財政的な限界があるのであまり多額のインプットが起きることを避けるべき。

オーストラリア:SBSTTAの本来の役割として、新規の緊急課題に合致するかどうかを議論するべき。新規の緊急課題に合致するという意味で、コスタリカやエチオピアを支持。この技術がおよぼす社会的技術的影響が検討されるべき。合成生物学がもつ良い可能性についても、否定はしないが、不確定要素が多い。この議題をCOPに持っていくことを賛成。予防原則も賛成

イタリア:合成生物学の議題をCOPに送ることに賛成。EUやメキシコなど、新規の緊急の課題とすることに賛成。決議案に賛成、名古屋議定書の範囲にはいる部分も検討するべき。

UK:ピアレビュー文書については、検討の時間が短く、十分な意見反映ができていない。合成生物学の利益の面も認識しなければならない。合成生物学について、国際的なレジームが必要という意見に対して、既存のレジームで十分と考える。モラトリアムは必要ない。リスクアセスメントについて、規制的メカニズムにおいて、社会経済的要素の検討は不要と考える。IPBESでと検討よりは、CBDとSBSTTAの間の議論でできる。名古屋議定書については、まだ発効していないので、決議案に入れるのは反対

エクアドル:合成生物学は、新規の緊急の課題。メリットもデメリットも見えない。そのため現決議案を支持

ボリビア:新規の緊急な課題とみるべき。全体的視点で、合成生物学が及ぼす影響、生態系や経済や文化や社会に及ぼす影響を評価する必要がある。科学的調査がもっと必要。社会経済的正義等にも言及

ノルウェー:レビューを継続する必要がある。合成生物学をCBDの議題とすべき。条約と議定書の連携強化を先週の会合で決めた。合成生物学の技術のいくつかはカルタヘナ議定書がカバーするものである

ザンビア:新規の緊急課題とすべき。遺伝子工学的アプローチへの疑問。

インドネシア:合成生物学は非常に懸念する課題。人間の健康や、文化なども含めた時限でのリスクアセスメントが必要。

インド:合成生物学に予防原則を適用することの重要性。CBDやその議定書の枠組みで議論していく

ベルギー:文章にもっとピアレビューのインプットが必要。技術の費用便益やリクスアセスメントをバランスよく評価することが重要。カルタヘナ議定書で扱いうるが、既存のガイドがカバーできていないところがある

アルゼンチン:ブラジルとオーストラリアを支持。新規の緊急課題の基準に合わない。もっと情報が必要。科学的な情報が集まらない限りSBSTTAで扱うのはふさわしくない。

後3カ国とオブザーバーの発言が残っているが、明日の外来種の議題が終わった後に、この議題を議論することになりました。

(公財)日本自然保護協会 道家哲平