第6回世界公園会議 二日目 世界の保護地域制度の現状

保護地域最新レポート発表に押し寄せる参加者と、ブラウリオ生物多様性条約事務局長

多分、今日だけでも、50を超えるイベント・発表が行なわれていると思うのです。なので全体のほんのわずかな部分になるのですが、私が参加したセッションをご紹介します。私が今日中心にフォローしたのは、「世界の保護地域制度の基盤的な機能」に関する最新情報です。

基盤的機能とは保護地域制度を通じて、世界をもっと良くすることを世界的にやっていくための必要最低限の機能のことです。

保護地域制度に必要な物事

世界的な保護地域の必要最低限とは、そもそも保護地域ってこれをさしますよという共通言語(IUCN保護地域管理カテゴリー)が必要ですよね、それから、世界にこんなのとこんなのがあって(=保護地域国連リスト)、足し合わせるとこれだけあるんですという共通のデータベースと情報収集(各国から言えば報告システム=World Database on Protected Area)が必須です。そして、そういった保護地域に関する全体の共通目標(=これが、愛知ターゲット11)と行動計画(=生物多様性条約保護地域作業計画であるPOWPA(パウパとかポーパとか発音)Program of work on Protected Area)、そして、その目標がうまくいってるかどうかを評価(=Protected Planet Report)して、何ができていないかや、これまでの行動を見直す必要があります。いろんな機関が、共同しながら、互いの強みをいかして作業分担をしているので、傍目からは理解に時間がかかります。ということで、発表の順序は全然違うのですが、分かりやすくこの順番で。

共通言語 IUCN保護地域管理カテゴリー

共通言語とは、各国で自然公園とか、鳥獣保護区とかいろんな名前をもち、同じ名前でも国によって規制が全然違うのが実情です。そこで、1992年から、保護地域の管理目的で分類しようということが提案され、1994年にその指針がまとまりました。厳格に守る保護地域、原生的環境を守るための保護地域、天然記念物を守るための地域、生態系を守る保護地域などどんな価値を守るかを物差しにすれば、その場で行なわれる活動(研究のみとか、一部観光もOKにするとか)もおよそ分類できるだろうと。そこで、何のための保護地域か(保護地域の管理目的)にあわせ大きく6つの区分を作りました。この分類や、一つ一つの保護地域がどのカテゴリーに入るかをだれが確認するとよいのかといったことを精査し、改善していく事業が2003年に立ち上がったspeaking common languageという事業です。この事業の各種提言の実施状況が各国21名の専門家(実は私も入っています)にインタビューした結果が報告されました。

面白いことに、企業もこの保護地域管理カテゴリーをその政策に採用しています。主として、事業開発の際のリスク管理(生物多様性上重要な場所での開発、資源採掘などが事業値に選んでしまうことを避ける)として用いられているなどの展開が生まれているようです。様々な指針も作られてきたことが分かりましたが、カテゴリーの指定がもたらすメリットなどをもっと理解して、活用してもらうキャパシティビルディングの展開などが今後の課題のようです。

保護地域国連リスト

保護地域国連リストは、10年に一度、国連の要請に基づき作成されるもので、実際の作成作業はUNEP-WCMCが担当します。リスト自体は1962年から作られるようになり、昔は、IUCNが作っていたというれきしあるものです。今回は、生物多様性条約事務局が、保護地域に関する各国の連絡窓口を把握していたため、加盟各国に情報提供を行ない、本日、国連リスト2014の発表となりました。最新の報告書によると、209,000近い保護地域の存在が報告され、2300万平方キロメートル(アフリカ大陸と同じくらいの面積)が保護地域であることが分かりました。2003年からおよそ数も面積も2倍になった形です。保護地域国連リストの報告書には、地域毎の保護地域の特性などが詳しくまとめられています。

World Database on Protected Area(WDPA)

各国から寄せられた情報は、10年に一度の集約・発表では有効活用できません。そこで、国連環境計画世界自然保護モニタリングセンター(UNEP-WCMC)とIUCNが共同管理する世界保護地域データベースに集約され、常に最新の情報がみられるようになっているのです。ちなみに、データベースは情報の集積なので、ウェブ上で見やすくするためのサイト(WDPAのビューワー)として、www.protectedplanet.netというサイトがあります。WDPAについても、本日、大きな改良に向けて作業を行なう計画が発表されました。それは、これまで原則「国や国際NGOから」の情報が入っていたデータベースなのですが、広く情報を受け入れられるようにするというものです。(そのために、データ評価者のタイプ、土地の所有情報、データの公開性(絶滅危惧種やその他の配慮)などの新しい情報項目が追加される予定です)

これによって、先住民地域共同体が守っている地域や民間(市民や企業)が守っている地域が、国が提出した情報と混乱することなく一緒に把握できるようになります。今、世界データベースで「保護地域(=生物多様性保全のために守られている場)は国が守っているところ」をさしますが、現実世界では、多くの企業や市民が自然を守っているところがあります。

この民間保護地域については、にじゅうまるプロジェクトで今後力を入れていこうとしている分野で、14日には日本の取り組み状況を発表する予定にもなっています。

この世界データベースについては、先進国や環境保全に熱心な一部の途上国の情報が豊富で、まだまだ実際の保護地域とのギャップがあることが分かっています。今日のイベントでは、生物多様性条約事務局長のブラウリオさんから、登録のインセンティブ作りが必要という指摘がなされました(たとえば、地球環境基金(ファシリティー)から助成を受け取る際に、保護地域情報をちゃんと提出すると、さらに助成金額が増えるとか、、)

Protected Planet Report 2014の発表

ある意味愛知ターゲットが生み出した新たな成果文書として、proteced planet reportというものがあります。2020年までに、少なくとも陸域及び内陸水域の17%、また沿岸域及び海域の10%、特に、生物多様性と生態系サービスに特別に重要な地域が、効果的、衡平に管理され、かつ生態学的に代表的な良く連結された保護地域システムやその他の効果的な地域をベースとする手段を通じて保全され、また、より広域の陸上景観や海洋景観に統合される。*にじゅうまるプロジェクトによる省略版は「陸地の17%、海の10%は、なにがあっても守る場所に決めよう。」です

この目標に向けた取組みがどうなっているのかということを2年に1度評価しようと言う動きがうまれ、出来上がったのがPP-reportです。IUCN第5回世界自然保護会議で、2012年版が発表され、今回、2014年版が発表されました。愛知ターゲット11を良く読んでもらうと、陸・海の「面積」だけでなく、重要地域の保護(=既存の保護地域と、実際の自然環境上重要な地域とのギャップ)、生態学的代表性(例えば、森林ばかり守るのではなく、湿地といったいろんな生態系を守りましょう。同じ森林でも、広葉樹林だけでなく、照葉樹林や針葉樹林といったいろんなタイプの森林を守りましょうということ)、効果的な保護地域管理等の要素が入っています。これらの要素について、どこまで進み、何がまだできていないかをこのレポートではまとめています。

簡単にその成果を紹介すると、

− 保護地域の数がおよそ209,000カ所になり、陸上の15.4%、全海域(領海の8.4%が保護地域。ただし、グレートバリアリーフなどの超大型海洋保護区の存在が大きい)の3.4%が保護地域となった。

− 保護地域のうち、生物多様性上重要な地域(例えば、絶滅危惧種が利用するなど)は、22−23%しか保護地域になっていないことが明らかに。今後の面積拡大にあたっては、このギャップを埋めることを意識した保護地域の拡充が必要。

− 保護地域の管理効果の評価が行なわれた保護地域の数は、国が設定した保護地域の29%に留まっている(そのため、2015年までに、この数字を50%にまでめざしている)

− 公平な管理、保護地域の連続性、景観への統合、「他の効果的な保全手法」についてはまだ判断するための指標や情報が整っていない。 といったものです。

 

なお、世界の保護地域の動向については、詳しくまとめたものとして

生物多様性条約資料集シリーズNo.1 保護地域編

見やすくまとめたものとして

「日本の保護地域アトラス」付録 保護地域をめぐる国際的な動向

があります。

 

(公財)日本自然保護協会 道家哲平