SBSTTA21で合意されたこと
SBSTTA21では、実質7つの議題を検討し、合意文書・SBI(条約の実施に関する補助機関)やCOP14への勧告案の採択を行い、4日間の会合を終えました。文書は文法チェックがこれから行われるので、暫定のものですが、その内容について仮訳+意訳を含みますが、簡単にまとめます。
議題3 2050年ビジョンに向けたシナリオ
2050年に向けたシナリオでは、愛知ターゲット達成のための継続的な努力の必要性を強調しつつ、IPBESの成果を歓迎し、引き続き文書のピアレビューを続け、第2回SBI(2018年7月開催予定)やCOP14に向けて更新することを事務局に要請し、第22回SBIの議題の中で検討することを要請しました。
またこの作業がポスト愛知枠組みにも関係するものとして認識し、事務局に対して、ポスト愛知枠組みのプロセスを検討する際に関係する分析を行うことを求めました。関係する分析については、生物多様性とSDGsや実施に関する教訓、CBDの下でとれる政策オプション、他の生物多様性可憐条約やリオ条約などがポスト愛知枠組みに貢献する手法などが含まれます。
また、COP14での決定案として、2050年ビジョンに関する結論(付属書としてまとめられました)を歓迎し、科学コミュニティーに対していくつかの事項を考慮することを奨励し、事務局に対して、シナリオの開発や適用にあらゆる国が参加できるよう能力養成を行うこと、このシナリオをステークホルダーの普及啓発や参画を推進するコミュニケーションツールとしていその利用を加速し、生物多様性への課題への地球規模でのサポートを高めることを求めました。その手法として、セレブを生物多様性大使として参画するという手法も含まれています。
SBSTTAの結論(付属文書)は下記のようなものです。
「2050年ビジョンは妥当なものであり、生物多様性戦略計画のあらゆるフォローアップにおいて考慮されるべきものです。現状の傾向ないしこれまでと同じ(Business as usual)というシナリオは、生物多様性の損失が続くことを示しています。社会経済の発展に向けたシナリオは、非常に幅広い未来があることを実証しています。2050年ビジョンに影響される生物多様性の目標は、手法の組み合わせによって幅広く社会経済的目標とともに達成可能です。その手法は、各国やステークホルダーにもよるが、様々なポリシーミックスによって開発できます。持続可能な未来に向けた道のりは、可能であるが変革的な変化(Transformative Change)が求められます。生物多様性と気候変動に関して一貫性のとれたアプローチが求められます。2050年ビジョンは、持続可能な開発目標と他の国際ゴールと一貫するものです。シナリオやモデルは、ポスト2020年世界生物多様性枠組みの発展や実施に様々な情報を提供するでしょう。地域や国、地方の状況に合わせたシナリオ分析は、生物多様性の保全や持続可能な利用の戦略的な計画立案に情報を提供するでしょう」
議題5 生物多様性と健康
<解説>会議では、WHOとの協働や、「Connecting Global Priorities: Biodiversity and Human Health, a State of Knowledge Review」の広報、ワンヘルスアプローチに関する能力養成のワークショップの結果などの成果や、作り上げたワンヘルスアプローチ導入のためのガイドラインなどを中心に議論が進みました。
WHO(世界保健機構)の欧州事務所では、Urban green spaces and health: a review of evidence (2016) and Urban green space interventions and health: a review of impacts and effectiveness (2017)などが続けて作られるなど積極的な活動が展開されています。
SBSTTA決定では、このテーマは次のIPBESに検証してほしいテーマであるということに注目しつつ、COP14決定案としては、人と生物多様性(人の体内の微生物の多様性と健康、都市における緑地空間や保護地域が持つ心身への良い影響など)の関係の重要性を認識することが重要であるという勧告案をまとめました。
また、生物多様性の配慮とワンヘルスアプローチの統合に関するガイダンスを歓迎し、このガイダンスの活用を締約国や関係機関に奨励すること、ワンヘルスアプローチを国家戦略や行動計画に組み込むことの奨励、健康セクターと関係する省庁との対話の促進の奨励、生物多様性と健康に関する統合事例について共有の奨励を求める決定案をまとめました。
また、事務局やWHO、生物多様性と健闘に関する国際機関連携グループに対しては、生物多様性と健康のアプローチに関する対話を促進すること、地域での能力く養成ワークショップを開催すること、関連する研究や実践や優良事例に関する情報を取りまとめること、この分野に関する科学的文献や報告などへのアクセス・定期的に更新・統合・普及するための仕組みについて研究すること、COP14以降の第23回SBSTTAや第3回SBIIに報告することを要請する文案をまとめました。
このガイダンスは、現在、COP決定案では脚注扱いになっており、ワンヘルスアプローチの定義や考え方が生まれた背景などが整理されています。そして、エコシステムアプローチやWHO報告書なども参照しながら、いくつかの指針や、ワンヘルスアプローチを適用する手法(条件整備、健康政策を統合するために必要な特定・評価作業、情報収集やモニタリング、調査の統合、教育や能力養成、コミュニケーション、統合的調査の支援)、取り組みの強化など体系的な情報が含まれています。
議題6 エネルギー、鉱工業、インフラ産業、製造業、健康セクターにおける生物多様性の主流化:科学的技術的検討と条約の作業プログラムの活用の視点から
<解説>とても大事な議題なのですが、議論するには情報と、交渉する時間が少なすぎたのか、業種ごとの主流化の論点というのはまとまらず第2回SBI(2018年7月予定)に持ち越されたという印象です。
SBBSTTA決定では、主流化の重要性を確認するとともに、主流化の手法は多くあるが実施が困難であることを留意しつつ、事務局長に対して、更なる資料をSBI2に向けて準備すること、主流化のケーススタディや実践例の提供を締約国に求めること、主流化のための長期的戦略的なアプローチに関する提案を準備すること、第2回SBIの前に資料作成を支援する視点から非公式助言グループ会合を開催することを求めました。SBIでは、新しい事務局のまとめ、各国からの情報提供をもとに、SBI2で決定案をまとめることが奨励されました。
COP14決定案(全文にスクウェアブラケットがかかり、合意されていない文書となっていますが)では、、エネルギー、鉱工業、インフラ産業、製造業や加工業、健康セクターが程度の差はあれ、生物多様性や生態系サービスに依存し、かつ、生物多様性に影響を及ぼす可能性があり、生物多様性の損失を食い止めるためにも重要なセクターであることを意識し、締約国やステークホルダーに対して、課題に取り組むためにこれらのセクターの傾向や既存の法律に関する傾向をレビューすること、このセクターでの主流化を進めること、主流化推進のための法的枠組み、政策や実践を検証し、必要に応じて更新すること、組織的、法的、寄生的枠組みを設定し強化し、あるいは推進すること、主流化の取り組みを検証すること、持続可能な消費や生産の優良事例を推進し強化すること、生物多様性への投資を奨励すること、パートナーシップの促進や、組織的能力や協力に向けた調整を強化すること、国家戦略でのしゅりゅかを強化すること、ノレッジプラットフォームを設立すること、求める文案をまとめました。
また、主要なセクターにおける主流化にム受けたプログラムアプローチを確立することについて同意し、
また、事務局に対して、GBO5に主流化についての情報を含めること、関係するアクターの参加を評価し強化するための適切な手法を特定すること、主流化のメカニズムに関する経験や情報の共有を推進すること、経済セクターと生物多様性についての対話を促進するために国際機関等と連絡をとること、地域レベルで経験等を共有するための能力養成・トレーニングの活動を推進すること、プログラムアプローチの実施、第3回SBIで進展を報告すること、を要請する文案をまとめました。
議題7 地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)
今回は、GBO5の作成に関する検討が中心的に行われました。より多くの情報ソースから愛知ターゲットの評価が重要ということなのでしょう、FAOやUNEP、UNDPなどからの情報提供、そして、なにより、各国から出される第6次国別報告書の情報が重要であることを再確認しました。そのうえで、オープンで、透明性のある形で、生物多様性のトレンドや今後の予測、危機、主流化を含む実施状況について、信頼できるデータやデータのアップデートを各国に呼びかけました。
COP14の決定案としては、
タイムスケジュールなどを意識しつつ、事務局に対して、政策決定者向けサマリーもふくめてGBO5を準備すること、タイムテーブルを主要な関係者と共有すること、準備にあたってIPBESやFAOなどの国際団体との協働を継続すること、
締約国に対しては、(CCOP14以降も)オープンで、透明性のある形で、生物多様性のトレンドや今後の予測、危機、主流化を含む実施状況について、信頼できるデータやデータのアップデートを行うこと、GBO5やローカル生物多様性概況第2版も含めて、作成のための資金提供を呼びかけました。
議題8 生物多様性戦略計画2011-2020の実施のための政策ツールの効果の検証ツールについて
今回事務局でまとめた政策の効果を評価するツールに関する情報を奨励し、第2回SBI会合でも活用すること、事務局に対しては、これらのツールの活用事例や経験についての情報を引き続きまとめていくことを要請しました。
また、COP14の決定案として
条約の実施に関する政策手法の有効性評価がSBI3の議論やポスト愛知枠組みにとっても重要であることを強調し、各国や国際機関、企業、その他のステークホルダー等にその活用を奨励するとともに、事務局に対して、有効性評価を支援するツールキットの開発とそれを第3回SBI(2020年開催予定)で検討することを求めました。
<解説>この勧告に出てくる有効性評価のツールについては、会議資料でまとめられており、そこで様々な手法が整理されており、NGOにとっても使えるツールかもしれません。
事業のロジックに整合が取れているかをはかるProgramme theory evaluation、事業がなぜ、どのように機能しているかを現実の事例をもって検証するCase study evaluationなどが紹介されています。
そのほかには、Formative/developmental evaluation、Before-and-after comparisons、Actual-versus-planned comparison、 Counterfactuals、Economic evaluation(Cost-benefit analysis –Cost effectiveness analysis)などです。具体の事例も紹介されています(比較的、EUや欧州各国での事例が中心です)。
(公財) 日本自然保護協会・IUCN日本委員会事務局 道家哲平