複雑化していく「生物多様性と健康」

生物多様性条約には、「Biodiversity and Health(生物多様性と健康)」の議題があります。

生物多様性条約には、「Biodiversity and Health(生物多様性と健康)」の議題があります。2018年のSBI2ではエネルギーと鉱業、インフラ、製造・加工業とともに、生物多様性の主流化の主要セクターの1つとして議論がなされました。続くCOP14では、再び独立した議題として扱われ、コロナ禍が深刻化されるより前から、ワンヘルスアプローチに関しての言及などがされていました。

今回、この議題はSBSTTA24の中に位置づけられていますが、オンラインの際には特に深く議論がなされませんでした。しかし、ジュネーブ会合(現地開催)では、既にコンタクトグループが3回開催されており、「生物多様性と健康の世界的行動計画(GLOBAL ACTION PLAN FOR BIODIVERSITY AND HEALTH)」をCOP15に採択することを目指し議論が重ねられています。

関連するサイドイベント

15日(火)のお昼の時間帯に生物多様性と健康に関するサイドイベント「Fast-tracking the implementation of One Health approaches for biodiversity and health」に参加しました。
サイドイベントが開催される部屋が最初のうちは少しわかりづらく、5~10分程度遅れて参加しましたが、満席になっており、立ち見をしていました。

サイドイベントは2部構成で、プレゼンとパネルディスカッションを行う形式でしたが、プレゼンは1人の持ち時間が3~5分程度で、パワーポイントを使用せずに次から次へと話していく形式だったので、ついていくのが少し大変でした。

サイドイベントの様子

サイドイベントの様子

1部のパネルディスカッションには、マラウィの交渉官の方、健康のCGのco-leadを務められるおふたりが登壇されていました。マラウィの交渉官の方は、アフリカ地域代表として、生物多様性と健康に関する内容について言及されており、生物多様性を健康セクターに取り入れていくことを強めていくこと、種・生態系のレベルでの考慮はもちろんだが、遺伝子レベルでの考慮も必要であるとおっしゃられていたことが印象的でした。また、他のパネリストの方が、先住民地域共同体(IPLCs)にとって、生物多様性と健康は昔からある概念で、薬などにも伝統的な知識が用いられていること、ワンヘルスアプローチという言葉自体は新しいものであることなどに言及されていました。そのようなことも考慮してIPLCや伝統的知識を尊重することで、IPLCの方の心の健康維持にもつながり、全体の健康やQOLの向上にもなるという話も印象的でした。

2部のパネルディスカッションでは、WHOやIUCNの方などが登壇され、専門機関の方々からのお話でした。韓国の環境省の方からは「Korean New Deal」の紹介があり、野生生物管理やマスタープランについての紹介がありました。

余談ですが、1部と2部の間に「健康」セッションならではのちょっとした体を動かす時間があり、現地開催ならではの楽しみを思い出すことができました。

1部と2部の入れ替え

1部と2部の入れ替え

難航する交渉

生物多様性と健康の議題は、non-paperを元に議論が進められています。コンタクトグループでの議論の内容は公開が禁じられているため、詳細は差し控えますが、本来主流化の議題として扱われていたはずの「生物多様性と健康」の議題は、ABS(Access and Benefit Sharing)やDSI(Digital Sequence Information)の話も絡み始め、なかなか一筋縄ではいかない状況になってきました。また、最初のnon-paperが発行された時期が11月だったこともあり、どの文書を使用して議論しているのか混乱してしまう交渉官の方も見受けられ、ジュネーブ会合の会議進行の複雑さや、少人数で参加されている大変さも垣間見えます。

健康の議題に対する現時点での個人的な感触

ポスト2020枠組においても、健康に関するターゲットがあり、1stドラフトでは、特にターゲット12が健康に直接関係のあるターゲットになっています(野生生物の取引や利用(T5)、汚染物質の減少に関わるターゲット(T7)でも健康については言及されています)。

現時点でターゲット12は、都市域の緑地(green space)や親水域(blue space)へのアクセスの増加、また、それらの量や質の担保に関する内容となっています。私自身も自分が日本という先進国の都市域に住んでいることから、自然(生物多様性)と健康といえば、都市域の良質な自然環境へのアクセスの担保やそこから得られる心身への良好な影響が主だと思っていました。しかし、サイドイベントや交渉の状況を見ていて、ワクチンや医薬品の開発に遺伝資源が必要不可欠なものであり、そこには途上国の思いとして、ABSの観点やDSI、IPLCsや伝統的知識の観点が入ってくることも、考えてみれば当たり前だと気づきました。コロナウイルスによるこれまでとの状況の変化も少なからず関係があるのかもしれません。また、健康は人権問題にも直結することなので、そのことに言及する国の方もいらっしゃいました。

なんとなく、SBI2やCOP14での健康セクターへの主流化をどうしていくかがメインだった時の議論よりも対立構造ができつつあるように思える健康の議題で、non-paperもブラケットだらけのまま検討されていましたが、今後も注視していきたいと思います。

矢動丸琴子
一般社団法人Change Our Next Decade