第5回ポスト2020枠組み交渉の振返り

生物多様性条約COP15の最重要議題であるポスト2020枠組みを検討するために予定外で開かれることになった第5回ポスト2020作業部会が3日から5日かけて開かれました。会議の成果があったかというと、期待ほど進まなかったと言えます。非常に多くの宿題をCOP15に先送りした形と言えます。

9月に開かれた非公式グループが整理した交渉文書(IGテキスト)時点では、非合意箇所を示すブラケットは417個だったのに対し、作業部会のまとめた文書のブラケットの数は713 個と戻りました(OEWG4のブラケットの数が910個だったので前進したとも言えますが)。*それぞれ該当の文書に検索を行って出した数字。IUCN-J調べ)

実施・ツールに関する行動目標(コンタクトグループ4)以外は、せっかく小グループで内容を精査したにも関わらず、再びクリスマスツリーと揶揄されるブラケット(合意されていない文言に[ ]をつけること)だらけの目標案を作るだけに終わった目標も数多くありました(行動目標1~8あたり)。クリスマス直前に開催されるCOP15で大量のクリスマスツリーの伐採から交渉を始めなければいけないのは色々皮肉なことです。

会議の様子を見ると、よく言われる「先進国と途上国の対立」ではなく、直前の今回ですら各国がそれぞれの国の視点からの希望をいうだけで、地球全体の目標・合意できる未来を探らなかっただけとも言えます。共同進行の会議裁きが不十分だったせいもあります。2050年ゴールの検証も、あるべき未来ではなく、「条約がこれまで使ってきた言葉で整理する」といった作業が行われました。

他方、合意された20(情報へのアクセス)、21(意思決定への参加)は、愛知目標では認識されてなかったか、非常に狭い範囲で設定されていた目標でした。

本当はここに22(目標達成におけるジェンダー対応)が”合意された”ものとして入る予定だったのですが、最終の本会議でロシアにひっくり返されました。ロシアの主張は、交渉官がビザの発行が出来ず、オンラインでの参加や、参加出来ない事態があったためとの論拠です。ロシア一か国での反対で、合意されない事態が生じたことが残念です。まさしくこれが、「世界共通目標づくり」に対する各国交渉官の立場が象徴されているようにも思います。

とはいえ、個人的な経験ですが、COP10の事前会合がナイロビで開かれた際に「man にはwomenが含まれるから、ジェンダーやwomenというキーワードをわざわざ入れる必要はない」といって会場を物凄く白けさせたアフリカの男性の交渉官の発言が記憶に残っているので、ほぼ合意直前の2022年は、2010年時点からすれば隔世の感があります。他方で、この行動目標は、日本にもたくさんの課題があって解決しなければならない目標であるなと思います。

類似のことは、企業の主流化を進める目標15でも見られました。

生物多様性の損失は、経済活動の半分(世界GDPの半分)に影響を与えるとされ、現在のマクロ経済が自然資本を正しく認識したルールが構築されていないとの経済団体や専門家の指摘が常識となりつつある中で、2030年の行動目標が、「大企業」あるいは「非常に多くの数の大企業(100%は目指さないとの限定)」に摘要されるような狭める意見、”政府に権限がないから”義務的開示は無理との意見が出るなど、今の状況・今の緩やかな延長の範囲の想像の中で、2030年の行動目標を決めようという意見が、一部の先進国からも出されていました。

日本のような世界目標があると、そのままの数字を国内レベルで適用しようとする発想に陥りがちな国(GBFは枠組みなので、国内目標を大きく設定してもかまわない)としては、あまり良くないサインだなと感じた第5回ポスト2020枠組み作業部会でした。

COP15には10000人以上の登録がされていると聞いています。世界のリーダーが集まる会議で、世界共通の目標が合意されるよう、日本や世界のNGOと連帯していければ良いなと思います。

モントリオール国際裁判所のライトアップ(WWF主催)

「今、ここモントリオールで開かれている国連生物多様性会議にリーダ達が集っている」とショーアップされたモントリオール国際裁判所のライトアップ(WWF主催)

参考までに、合意された20,21。合意に至らなかった22の仮訳を紹介します。

TARGET 20
Ensure that the best available data, information and knowledge, are accessible to decision makers, practitioners and the public to guide effective and equitable governance, integrated and participatory management of biodiversity, and to strengthen communication, awareness-raising, education, monitoring, research and knowledge management and, also in this context, traditional knowledge, innovations, practices and technologies of indigenous peoples and local communities should only be accessed with their free, prior and informed consent , in accordance with national legislation.

(仮訳)生物多様性の効果的で公平なガバナンス、統合的で参加型の管理を導き、コミュニケーション、啓発、教育、モニタリング、研究、知識管理を強化するために、意思決定者、実務者、一般市民が利用可能な最善のデータ、情報、知識にアクセスできるようにする。また、この文脈において、先住民や地域社会の伝統知識、革新、実践、技術は、国内法に従って、自由意志に基づき、事前に十分な情報を与えられた上での同意によってのみアクセスされるべきである。

TARGET 21
Ensure the full, equitable, inclusive, effective and gender-responsive representation and participation in decision-making, and access to justice and information related to biodiversity by indigenous peoples and local communities, respecting their cultures and their rights over lands, territories, resources, and traditional knowledge, as well as by women and girls, children and youth, and persons with disabilities and ensure the full protection of environmental human rights defenders.

(仮訳)先住民地域共同体の文化や、土地、領土、資源、伝統的知識に対する権利を尊重しつつ、先住民地域共同体および女性や少女、子どもや若者、障害者が、意思決定への完全、衡平、包括的、効果的かつジェンダーに対応した表明と参加や、生物多様性に関する司法と情報へのアクセスを確保し、かつ、環境人権保護者の完全保護を確保すること。

TARGET 22
Ensure gender equality in the implementation of the framework through a gender [responsive] approach where all women and girls have equal opportunity and capacity to contribute to the three objectives of the Convention, including by recognizing their equal rights and access to land and natural resources and their full, equitable, meaningful and informed participation and leadership at all levels of action, engagement, policy and decision-making related to biodiversity.

(仮訳)すべての女性と女児が、土地と自然資源に対する平等な権利とアクセス、生物多様性に関連する行動、関与、政策、意思決定のすべてのレベルにおいて、完全、公平、有意義かつ情報に基づいた参加とリーダーシップを認めることを含め、条約の3つの目的に貢献する平等な機会と能力を持つ[ジェンダー対応アプローチ]を通じて、枠組みの実施におけるジェンダー平等を確保すること。

国際自然保護連合日本委員会 事務局長 道家哲平