5月4日 ポスト2020枠組み、海洋沿岸生態系、IPBES作業計画

5月4日20時(日本時間)から始まったSBSTTA24プレナリーでは、ポスト2020枠組み(議題3)に関する意見と、海洋沿岸生態系の議題(議題6)、IPBES作業計画(議題8)に対する意見が出されました。

ポスト2020枠組みについては、コンタクトグループで議論を深めることが議長から示され、5月6日から9日までに4回セッションを設けて検討することになりました。コンタクトグループは、登録したかたは見られますが、Youtubeでの配信や録画は行われない予定です。

日本のラムサール登録湿地の一つ葛西臨海公園

日本のラムサール登録湿地の一つ葛西臨海公園

ポスト2020枠組み(議題3)

ポスト2020枠組みに関する意見は、昨夜、発言が残っていた国の発言と、ステークホルダーとして、先住民地域共同体、女性、ユース、NGO、NGO11団体の共同声明などが行われました。

先住民地域共同体の代表としてIIFBからは、バーチャル交渉への参加の困難さや、先住民地域共同体の意見の反映が確保されるように希望しました。その上で、伝統的な知識(TK)の指標の設定や、指標に関する専門家会合へのIPLCの参加の確保、伝統的知識など先住民の知識や権利に関する視点を一つの目標だけでなく、多くの目標に横断的に設定することを提案しました。また、30×30目標が合意される場合には、権利ベースのアプローチがしっかりとした適用されることが重要として、先住民・地域共同体の権利が侵害されるような保護区の拡大への懸念を伝えました。。

女性グループからは、女性やIPLCやユースなどの参加の重要性が原則レベルでは、指摘されているものの、具体的な記述が欠けていることから、代替案の提案がありました。また、ジェンダーに関する情報が体系的に集められておらず、十分な評価や目標設定が行われていない状況を指摘。また、生物多様性に関する政策決定への参加を目標設定した目標20については、参加に限らず、エンパワーメントなどに踏み込んでいくべきと主張しました。

ユースからは、人権を横断的な視点として入れていくべきこと、教育を、実施状況の重要な要素(Enabler)として取り入れるべきこと、自然に根ざした解決策(NbS:Nature-based Solutions)の明確な定義と運用がないと、単一植林を安易に認めるような仕組みが進むリスクを指摘。この流れで、自然再生で議論されるnet gain やnet lossの原則についても慎重な運用を主張しました。

NGOの代表として、CBDアライアンスからは、市民参加プロセスの不足の指摘、生物多様性条約の実施義務が弱いことへの懸念を伝えました。また、目標や指標と連動しながら、各目標に対する市民からの懸念点をまとめて紹介しました。

また。動物福祉や野生動物保全に取り組む、11団体の共通声明もあり、野生動物の取引に関する目標の強化が主張されました。ゼロドラフトでは、「違法な捕獲や利用の撲滅」または「法的に認められる取引の推進」が掲げられていますが、野生動物由来の人畜共通感染症(新型コロナウイルスや鳥インフルエンザ)を引き起こすウイルスは、違法・適法関係なく、野生動物からもたらされる視点から、野生動物利用の適正化の取り組みや指標の強化などが主張されました。

海洋沿岸生態系

このテーマでは、「生態学的、生物多様性上重要な海域Ecologically Biologically Significant  Area:EBSA(エブサと呼ぶ)」に関する意見が多く出されました。海洋の生物多様性は、気候変動や乱獲や海底掘削等で保全の強化が求められるところですが、どこの国にも属さない「公海」という空間が存在することもあり、生物多様性条約の枠組みで可能なことと、国連海洋法条約など別の仕組みで議論するべきことなどがあり、その検討の難しさが端的に現れるのが、このEBSAという検討です。

第9回締約国会議の決定に基づき、10年近くかけて、生物多様性条約では、公海の有無を問わず、重要海域の特定作業を進めて、専用のウェブサイトへの登録を進めてきました。今回は、このEBSAの修正や追加、内容の書き換えとうの手続きに関する議論が含まれています。

それ以外の海洋生態系の論点ももちろん存在します(海のOECM、空間計画、海底掘削、珊瑚礁保全、海洋漂流物、プラスチック課題、締約国の能力要請、他の条約との連携 、気候変動と海洋沿岸生物多様性の関係など)。

ポスト2020枠組みの議題で、High Ambition Coalition for Nature and Peopleという高い野心度で目標設定を主張する国が50ヵ国以上集まっていることが紹介されましたが、類似の宣言としてThe Blue Leaders – 30×30というイニシアティブに言及する国もありました。

このテーマも、コンタクトグループの設立が、SBSTTA議長によって宣言され、5月10日と11日にCGの開催が宣言されました。

IPBES作業計画への提案

この議題は、IPCCの生物多様性版とも言われる国際独立機関であるThe Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services (IPBES イプベスと呼ぶ)の作業計画に対して、生物多様性条約からの要請をまとめる議題となります。

IPBESは、2012年に設立されましたが、さまざまなレポートを取りまとめてきました。次の中期事業計画では、生物多様性や自然の人々への寄与(Nature Contribution to People:NCP)の評価の更新に加え、さまざまな手法研究や外来種に関するテーマ、企業活動と生物多様性に関する評価作業などを計画しています。

多くの国がIPBESとの連携の重要性を指摘しますが、併せて、IPBES成果の活用、締約国や途上国の能力要請、類似の評価との重複の回避、今後の作業計画への注文などが寄せられました。

現在のセッションは、各国が一方的に意見を述べる場面なのですが、意見衝突があったのは、IPBESが行った生物多様性とパンデミックに関するワークショップ(IGESウェブサイトで、日本語で見られます)です。このワークショップの報告が会議資料で言及されているのですが、総会で承認された報告書ではないことから、その報告書の扱いに懸念を示すブラジルと、ワークショップの成果を強調するEU諸国という対立が垣間見えました。

この議題については、まだ発言できていない国が多く残っており、5月23日に開かれるプレナリーで継続することが宣言されました。

道家哲平(IUCN-J事務局長/日本自然保護協会)